第四話
『始まり』
今日はなのはの訓練がいつもよりも遅く終わったため、大慌てで無限書庫へと向かった。
走ったので少し息を乱しながらも、ノックをして司書長室にキャロは入る。
そして部屋に入ればいつものように、ユーノの「いらっしゃい」という言葉が……
「……あれ?」
なかった。
毎回、いつも待ってくれていた司書長が今日はいない。
「ユーノさん、どこいるんだろう?」
ぐるりと部屋を見渡すが、姿はどこにも無い。
けれどもユーノのことだから、絶対遠くには行っていないはずだ。
行っていたら特訓は休みになっているはずだし。
と、いうことは、
「無限書庫にいるのかな?」
すぐ隣にある、無限書庫にいるはずだ。
◇ ◇
無限書庫の扉を開け、キャロは中へと入った。
書庫に入った瞬間から分かるのは、丸い部屋に果てなく突きあがる本の棚。
そして空中で動いている数人の人影。
その中の一人がキャロに気づいたのか、上から降ってくるように降りてきた。
「何か用かい?」
「あの、キャロ・ル・ルシエといいます。スクライア司書長を探してるんですけど……って、アルフさん?」
キャロが降りてくる人物をよく見てみると、そこにいたのは旧知の女性。
互いに少しだけ驚きの声をあげる。
「ん? キャロじゃないか。あんた、何でここに?」
夜も少し遅い時間。
あまり一人で歩くには好ましくない時間帯だ。
けれどキャロはアルフの問いを少し勘違いしたようで、自分がユーノに弟子入りしたことを彼女が知らないのだと思って、説明しようとする。
「あの、私はユーノさんから特訓を受けてて、それで──」
「いやいや、そうじゃないよ。あんたがユーノに弟子入りしたのは一緒に働いてるから知ってる。あたしが気になったのは……」
と、ここでアルフが急に喋るのをやめた。
「アルフさん?」
「あ〜、まあいいや。どうせユーノが言うだろうしさ」
「……?」
アルフの言った意味が分からなくて、キャロが小さく首を傾げる。
「すぐに分かるから気にしないでいいよ」
手を振って気にしないようにアルフが促す。
「それで、ユーノがどこにいるか……だったっけ?」
「はい」
「あいつなら──」
そう言ってアルフは上へ指を差した。
キャロはその指先を辿って上を見る。
そこにはキャロが探していた人物がいた。
「………………」
ユーノは座禅を組み、目を閉じながら魔方陣を展開して、同時に20冊もの本を読書、検索、整理していた。
「……すごい」
キャロが感嘆の声を出し、憧れの眼差しを向ける。
理由なんて当然だ。
──なぜなら、これがキャロの求めているものだから──
魔法を同時展開し、なおかつ、それを完璧に操ってみせる。
それがキャロの目標としていることである。
そして実演が今、キャロの目の前で行われているのだ。
尊敬しないわけがなかった。
「やっぱすごいよね。あれは……」
アルフもキャロに同意する。
「アルフさんから見ても凄いんですか?」
「まあね、あいつは別格だよ。普通の司書はデバイスの補助でやっと検索・読書・整理を同時平行出来る。たかだか数冊だけどね。けどユーノは十数冊を普通にこなすから」
「……十数冊も」
キャロはアルフから話を聞いて、さらに圧巻に思った。
一人だけ実力がかけ離れてる。
たとえそれが戦闘能力じゃないにしても、本当に凄いと感じる。
「普通は読書魔法だけを使ったとしても、素人は2冊が限度。私達司書でさえ読書魔法オンリーで頑張っても10冊くらいだろうね。それ以上は頭が痛くなるから。けれどユーノだったら20冊を簡単に越すよ。まあ、言ってしまえばユーノもある種の天才と言っていいんだよ」
あいつは謙遜するけどね、とアルフは付け加える。
「それで、師匠を呼ぶんだろ?」
「あ、はい」
「じゃあ……おーい、ユーノ〜!」
アルフが大声でユーノの名前を呼ぶ。
すると、その声に気づいたユーノが目を開いて、キャロとアルフがいる方向を一瞥した。
その瞬間、ユーノの魔方陣を囲うように回っていた本はいきなりバタバタと閉じ始め、すぐさま色々な方向へと飛び去っていった。
そしてユーノは魔方陣の展開を解き、座禅をやめるとキャロの元へと向かった。
「ごめん、今日は来ないかと思ってた」
申し訳なさそうにユーノが謝る。
「いえ、私もここに来るのが遅かったですから」
ユーノに非は一つもない。
「前にも言ったと思うけど、訓練で遅くなったり疲れてたりしたら休んでいいんだからね?」
「それは……はい。ちゃんと分かってます」
「本当に?」
「……はい」
別に毎日来なくてもいいと言われてはいる。
言われてはいるけれど。
──だけど。
ここには毎日来たかった。
ユーノがいてくれる。
自分を待ってくれて、優しく迎えてくれるユーノがいる。
それが嬉しくて、いつも嬉しくて、だから今日も遅くなろうが来たのだ。
「でもね、時間も時間だからそんなに訓練は出来ないし、何より毎日のように無限書庫に来てるから、今日ぐらい特訓は休んでも──」
と、ここで二人のやり取りを見守っていたアルフが口を挟んだ。
「まあまあ、ちょっと落ち着きなよ」
「アルフ。僕は別にキャロのことを責めてるわけじゃ……」
「はいはい、分かってるって。この子が無理をするのが嫌なだけなんだろ?」
アルフはユーノの心を覗いたかのように言う。
ユーノもアルフに言われたことは大当たりだったため、何も言い返せない。
次にアルフはキャロの方を向いて、
「ユーノの言ったことが、あたしがさっき言おうとしたことだよ。別にあたしが言ってもよかったんだけどね。どうせならユーノに言わせたほうがいいと思ってね。効果はあったろ?」
「…………はい」
確かに効果は抜群だった。
ユーノに言われてると、すごく申し訳ない気持ちになった。
「ただ、そこまで気にすることないよ。ユーノはアンタが心配で心配で仕方ないだけだからね。そうなんだろ?」
「それは、ね。ただでさえ訓練で遅くなってるんだから、その後こっちに来たら無理してるんじゃないかって思って心配になるのはしょうがないじゃないか。ただでさえキャロは前科があるんだから」
心配するな、というほうが無理だ。
「……ごめんなさい」
いたたまれなくなって、キャロが頭を下げる。
「ううん。別に謝ってほしいんじゃないんだ。ただ、心配してるってことを知ってくれたらいいよ。だって僕が毎日会いたいのは、元気一杯なキャロなんだから」
そう言って、ユーノはキャロの肩に手を置く。
「来るのは遅かったけど、今日は元気があるからよかったよ」
ユーノが、ほっとしたように笑みを浮かべる。
表情から本当に自分を心配してくれたんだと、キャロは心から実感する。
不謹慎かもしれないが、嬉しくなった。
「というわけで、ユーノが言いたいことは分かったかい?」
「はい。よく分かりました」
「ん、よかったよ」
ユーノは言いたいことが伝わったことに安堵する。
「ま、無駄な心配かましたあげくにキャロの気分を落ち込ませた罪は、あとであたしが返しとくから安心しときなよ」
からかうような笑みでアルフがキャロに言う。
「え? ちょ、ちょっとアルフ!?」
「いいじゃないか。キャロが落ち込んじまったのは本当なんだから。落ち込ませたアンタに責任があるだろ?」
「い、いや、それは……そうだけど」
「大丈夫ですよ、アルフさん。私、心配されてすごくうれしかったですし」
「そうかい? まあ、キャロがそう言うんならやめとこうかね」
くすくす、とアルフが笑いながら浮かび始める。
「それじゃ、あたしは仕事の途中だから戻るよ。久々に仕事をしたからか、勘が鈍っててね。今日までに終わらせる分がまだなんだよ」
アルフはそう言って、ユーノ達から離れていく。
そして小さくなっていく彼女を見送りながら、ユーノは目の前の女の子に対して、とある予想をしていた。
「あのさ、キャロ」
「なんですか?」
「夕ご飯、食べた?」
「いえ、まだですけど」
キャロの返事に『やっぱり』と思う。
「だったら時間もないことだし、今日は訓練をやめて一緒にご飯でも食べようか?」
先ほどまでやっていたのは明日の分の仕事だから、今日はこのまま帰っても問題ない。
「どうかな?」
ユーノが尋ねる。
が、キャロの中で答えなんてもう決まってた。
「はい! 一緒に食べたいです!」
◇ ◇
キャロとユーノ、二人で食堂へと足を運ぶ。
そして向かい合って食べ始める。
「本当はね。いつも夜は自炊してるんだ」
「自炊してるんですか?」
「うん。前に一度働きすぎで倒れたことがあってね。それ以来食事には気をつけるようにしてる」
「倒れた、って大丈夫だったんですか!?」
「もちろん。ただ、あの時は無限書庫を開拓していた時だったから、まともな睡眠時間が取れなかったし、食事もまともに取れなかったんだ。もちろん、今は大丈夫だよ」
だからこそ、学会にもしっかりと顔を出せる。
「それはよかったです」
キャロがほっ、と一つ息を吐いた。
「今度、機会があったら僕が食事作ってあげようか? いつも食堂だろうし」
「そんな、悪いですよ。食事なんて作ってもらったら」
「大丈夫だよ。僕が作りたいだけだから」
にっこりとユーノは微笑む。
その笑顔からは、迷惑なんてものは微塵も伝わってこない。
「そ、それならお願いします」
だから素直にユーノの好意を受け取れた。
「うん。じゃあ、いつか作ってみるね」
と言ったところで、ユーノはキャロの顔にカレーがついていることに気が付いた。
「キャロ、ほっぺたにカレーがついてるよ」
ちょいちょい、と自分のほっぺたを指してキャロに教える。
「え? ど、どこですか?」
慌ててティッシュで拭こうとするキャロだが、いかんせん見当違いの場所を拭いている。
「そっちじゃなくて右側の……」
指示を出すがどうにもうまくいってない。
ユーノはキャロのそんな姿を見ると、体を少しだけ乗り出した。
「ここだよ」
手を伸ばしてカレーが付いている所をふき取る。
「あ、ありがとうございます」
キャロはユーノにしてもらった行動に照れながらも、しっかりとお礼を言う。
けれども照れからか、キャロは急に会話を変えた。
「そういえばアルフさんと無限書庫で会ったときに思ったんですけど、アルフさんって何型の使い魔さんなんですか?」
キャロの言ったことにユーノが首を捻る。
「え? フェイトから聞いたことないの?」
「フェイトさんの使い魔さんだってことぐらいは知ってますけど。あとは……ちょっと分からないです」
「そうなんだ」
ユーノは相槌を打つ。
が、心の中ではキャロがアルフのことをほとんど知らないことに心底、驚いていた。
──アルフって、フェイトの使い魔なのに。
出会って1ヶ月とちょっとの自分がキャロが話しているときでさえ、話には出たというのに。
よりアルフに近しいフェイトが彼女を話題にすることはないのだろうか?
疑問に思う。
「アルフはね、狼型の使い魔なんだよ」
「あ、そうなんですか」
「それでね。アルフって本来は大人の姿だったり、大きな狼の姿をしてるんだけど、今の姿はフェイトの負担にならなくて省エネでいいんだってさ」
ユーノがアルフの今の姿について注釈を入れた……その時だった。
「ちなみに子犬フォームもあるんだよ」
付け加えるように近くから言葉が投げかけられる。
言葉が掛けられた方向を見ると、そこにいたのは、
「久しぶりだね、キャロ、ユーノ」
久方ぶりに顔をあわせるフェイトだった。
「フェイトさん!」
キャロがうれしそうに彼女の名前を呼ぶ。
「久しぶり、フェイト」
「うん。元気にしてた?」
「もちろん。僕もキャロも元気だよ」
ね、と言ってキャロとユーノは顔を合わせる。
「フェイトは? 仕事が忙しそうだけど」
「大丈夫。確かに忙しいけど元気だよ。それに、仕事のほうはそろそろ落ち着いてくると思うし、問題ないよ」
「それならよかった」
「ご飯、これから私も食べるから一緒にいいかな?」
お盆を持ちながら一応、というわけではあるが、フェイトがユーノとキャロに尋ねる。
「もちろんです」
「もちろんだよ」
当然のごとく了承を得たフェイトは、ユーノの隣へと腰を降ろす。
「それにしてもユーノとキャロが一緒にご飯を食べてるとは思わなかったよ」
「今日は偶々だよ。なのはの訓練が遅くなってね。それでキャロがご飯も食べずに僕のところに来た、というわけ」
二人がここにいることが意外そうなフェイトだったが、話を聞いた途端に納得する。
「そうなんだ。だから今日はユーノとキャロが一緒にご飯食べてるんだね」
「そういうこと」
ユーノとフェイト、お互いが微笑んで穏やかな空気が流れる。
「キャロはどう? ユーノ先生の訓練は厳しい?」
「いえ、ユーノさんの訓練は全然厳しくないです。どうして出来ないのか、どうして駄目なのかをちゃんと分かり易く教えてくれますから」
実際、ユーノは自分が持ちうる限りの知識、語彙をふんだんに用いてキャロに駄目な所を言うため、何が駄目なのかをキャロはすぐに把握できる。
「私の体調管理も、すごく気を遣ってくれて」
だから今日は本当に嬉しかった。
「私にとっては最高の先生です」
それこそキャロにとっては、なのは以上に。
「そう言われると……すごく照れるな」
そしてキャロから初めて聞く『ユーノ先生』への感想に、言われた本人が誰よりも照れた。
けど、照れくさくとも嬉しかったのは確かだ。
「キャロ、ありがとう」
だからユーノは素直に感謝の気持ちを伝えた。
◇ ◇
「そろそろ時間も遅いし、キャロは帰らないと」
時間を見れば夜の10時。
そろそろ寝ないと明日の訓練に確実に響くだろう。
「そうだね」
食後のお茶を啜りながら、フェイトも肯定する。
「フェイトさんとユーノさんはどうするんですか?」
「少しフェイトと話したいことがあってね。だからもう少しここにいるよ」
フェイトもそのことについて納得しているようで、さして何も言わない。
「……そうですか。それならお先に失礼します」
本当は自分も残りたいが、今までのやり取りからユーノがそれを許可しないことは明白だ。
だからキャロは大人しく頭を下げて、席を立つ。
「うん。ゆっくり休むんだよ」
笑顔でユーノがキャロを送る。
「明日は私も訓練に参加するからね」
フェイトもユーノと同じように笑顔でキャロを見送る。
キャロはそれを見てから、食堂を出て行った。
「さて、と」
キャロが完全に去ったあと、ユーノはフェイトに話しかける。
「ねえ、フェイト。さっきキャロと話してて驚いたよ。アルフのこと、ほとんどキャロは知らないって言うんだからさ」
少々憮然とした態度で、ユーノはフェイトに言う。
「普段、君はキャロ達とどんな話をしてるの?」
「…………それは……」
何と言ったらいいか分からなくて、フェイトは言葉に詰まる。
──さっき『念話で話したい』って……このことだったんだ。
そしてフェイトは言われたこと何も言い返せない。確かにアルフのことについてキャロと話したことはほとんどなかった。
おそらく、知ってるのはフェイトの使い魔だってことぐらいだ。
「仕事関係以外で話すことってないの?」
「……あんまり」
「フェイトに近しい存在のアルフのことをほとんど知らない、ってことはフェイトに関する他のこともあんまり知らないの?」
「……うん」
フェイトは頭を一度だけ縦に振った。
「母さんとクロノ、あとは私がどういう“存在”なのかは知ってるけど、それ以外はたぶん言ってない……」
「…………フェイト」
まあ、彼女の状況を考えたら予測はできていた。
「あまり話す機会がない、ということは分かるよ。フェイトは忙しいしね」
「……………………」
「でもね、僕が言いたいこと分かるよね?」
「……一応……分かってるつもり」
ユーノが言いたいことにフェイトも察しがついているようだ。
「君が忙しいことは知ってる。だけどね、君は執務官であると同時にキャロとエリオ君の保護者でもあるんだ」
「……うん」
「保護者は保護することだけが役目じゃない。保護者の役割……いや、『家族』の重要性は君も知ってるよね」
「……うん」
なのはが大怪我を負ったとき、彼女を心配するあまり揺らいでいたフェイトの心を支えてくれたのは友人達、そして何よりも義理の母親と兄が心配してくれた。
「たかだか無限書庫で働いてる僕だって、辛いと思ったことがたくさんあったんだ。だからきっと、戦場に出て戦うあの子達には僕以上に辛いことがたくさん待ち受けてる。その時に支えてあげられるのは……フェイトしかいないんだよ」
ただ、願うようにユーノは言う。
「君はキャロやエリオ君の『家族』なんだろ?」
「うん」
「だったら、どんなに忙しくても頑張ろうよ」
「……そうだよね」
仕事が仕事だからこそ厳しい。
それでも、だ。
──言い訳になんて出来ない。
したらいけないんだ。
心底、そう思う。
目の前で、自分の『家族』をこんなにも心配してくれる人がいるのだから。
──でも。
だからこそ、引っ掛かったことだってある。
「ね、ユーノ」
「どうしたの?」
「ユーノはダメなの?」
「僕?」
「そうだよ。だってユーノ、こんなにキャロのこと心配してくれてる。それならユーノはあの子を支えてくれないの?」
ここまで親身にキャロのことを考えてくれているのだから、ユーノはどうなのだろうか。
キャロを支えてくれはしないのだろうか。
「僕だってね、キャロを支えてあげられたらいいと思うよ。だけど──」
「だけど?」
「──僕は歪んでる」
「…………え……?」
ユーノの思わぬ言葉に、身体が凍りついたような気がした。
「親を知らず、兄弟を知らない。そんな僕がキャロを支える『家族』になれるのかって……少し不安になる」
「なっ!? そんなこと──」
ない、と続けようとした言葉は、ユーノが手で制したことによって遮られる。
「けどさ、決めたんだよ」
親を知らず、兄弟も知らない。
ただ、ほんの少し『家族』を知ってるだけの自分だけれど。
「何も知らない僕だけど、あの子を支えてあげようって決めたんだ」
そして真っ直ぐにフェイトを見据える。
『家族』になりたい、と。
まだ断言できるわけじゃないけれど。
それでも、キャロを支えてあげたいと思ってる。
「駄目かな?」
実直で真剣な眼差し。けれど彼の瞳には……優しさがあった。
フェイトがよく知ってる、ユーノの暖かい優しさが。
「全然……そんなことないよ」
だから駄目なわけがない。
優しい彼がキャロを支えてくれることが、嫌なわけがない。
「すごくうれしい」
epilogue
「まあ、これからはフェイトの仕事も少なくなるみたいだから安心した」
「うん。これからはエリオとキャロとの時間を、もっとたくさん増やすことにしたよ」
「そうしてくれると嬉しいな。もっとたくさん、君のことをキャロ達に教えてあげて」
「もちろんだよ。ユーノのこととかも話したりしそうかな?」
「それは勘弁してよ」
互いに笑みを浮かべながら、冗談を交わす。
「けど、ユーノが仕事で辛かったことがあったって初めて知ったよ」
「君やなのはに迷惑を掛けたくなかったからね」
さも当然のようにユーノは言う。
「それに僕は男だし」
「そんなの関係ないと思う」
ユーノの『男だから』という理論をピシャリと否定するフェイト。
「次から辛いことがあったらちゃんと言うこと。分かった?」
さきほどとは逆に、フェイトがユーノを問い詰める。
「さっきユーノは散々、私に言ったよね。だったら今度は言わせて貰うよ」
フェイトはさっきのユーノと同じように、彼を真っ直ぐ見詰める。
「ユーノが辛そうにしてたら私は絶対に心配するし、どうにかしてあげたいと思う。だから、今度からはちゃんと言って」
「あのね、フェイト。僕にも男の誇りというものが……」
「……ユーノ」
顔がだんだん泣きそうになってくる。本当に心配してる表情だ。
ユーノのカミングアウトは、予想以上に重いものだったらしい。
「わ、わかったよ」
「……ほんとう?」
「本当だって。ちゃんとフェイトに言うから」
フェイトの泣きそうな顔でのお願いに、ユーノの『男の誇り』なんかが勝てるはずもなく、ユーノはあっさりと降伏した。