二十三話

『出来ること、出来ないこと』




本日、本当は朝から考古学士としての仕事がある……はずだったが、相手先の都合により急遽なくなってしまった。
だから代わりに無限書庫で働こうと向かったが、入った途端、司書達に「今日はいりません」と追い返される。

「どうしよう?」

行く場所を考える。
一日中暇をしているというのは、どうも性に合わない。

「やっぱり……あそこしかないかな」

自分が行こうと思う場所など、幾つもない。

そう、今の自分が一番行きたいのは──

「機動六課に顔でも出しに行こう」

フェイトと子供達のいる、機動六課だった。


















      ◇      ◇


















フェイトの仕事部屋へとたどり着く。
ユーノは一度、ブザーを鳴らす。
けれど、反応はない。

「……いないのかな?」

もう一度鳴らす。
が、やはり反応は無い。

「いないみたいだね」

仕事がないと思われるお昼に来てみたけれど、どうやら失敗したらしい。

「仕事でどこかに出かける、とは聞いてなかったら、六課のどこかにいるとは思うんだけど……」

ユーノは携帯を取り出す。
そして電話を掛けようとして……

「あ、仕事中だったら悪いか」

取り出した携帯をポケットに入れ直す。

「さて、どうしようかな」

電話を掛けるのは少々憚られる。
と、少しユーノが思案していると、

「あの……フェイトさんに何か御用ですか?」

不意に声を掛けられた。
ユーノは声のした方向へと向く。
するとそこにいたのは──

「えっと…………君は確か……」

「ティアナ・ランスターといいます」

ユーノに話しかけた少女──ティアナが自己紹介をする。

「ユーノ・スクライア先生ですよね?」

「ええ、そうですよ」

ユーノが素直に頷く。

「僕のこと、知ってるんですか?」

「はい。模擬戦のデータを見たのと、時折キャロやエリオが先生のことを話してますから」

それはもう、自分の親のことのように生き生きと語っている。

「そうですか」

心底嬉しそうにユーノが笑う。

「それで、その……フェイトさんに何か用があるんじゃ……」

「ああ、そうでしたね」

用というよりは、ただフェイトに会いたかっただけなのだが、人によってはそう見えるだろう。

「ランスターさんはハラオウン執務官がどこにいるか知ってますか?」

「フェイトさんなら食堂にいると思います」

ティアナから答えが返ってきた。

「私、これからフェイトさんと待ち合わせしているので一緒に行きますか?」

ティアナの申し出に、ユーノは一つ頷いて応えた。

「ありがとうございます」
















ユーノとティアナが二人並んで歩く。

「ランスターさんは確か……執務官志望なんですよね」

「え? どうしてそれを知ってるんですか?」

「僕はハラオウン執務官や、八神部隊長から色々と話を聞いているんです。それで話の一つとして、ランスターさんの話があったんですよ」

「それにヴァイス陸曹からも話を聞いたことがありまして」

「ヴァイス陸曹とも知り合いなんですか?」

「ええ、こないだから話をする幾度かありまして。その時に色々と」

「私のこと、どんな風に言ってました?」

「可愛い人だと言ってましたよ」

瞬間、ティアナの顔が真っ赤に染まった。

「か、可愛いって、えっと、あ、あのその──!?」

意外な答えが返ってきて、ティアナが少しだけ取り乱した。

「わ、私のこと、ヴァイス陸曹が可愛いって……」

「言ってましたよ」

ユーノがもう一度言う。
するとティアナが少しの間、自分の世界へと入る。

「……これってもしかして脈あるのかな? いや、でもヴァイス陸曹のことだから、誰にだって言ってる可能性も否定できない。でも……」

ぶつぶつと独り言を呟く。

「ランスターさん?」

「──あっ!」

ユーノに呼ばれて、現実世界へと戻る。
そして、ティアナは恥ずかしかったのか慌てて話題を変えた。

「そ、そういえばスクライア先生はキャロを指導なさってるんですよね」

「ええ。彼女とは戦闘のタイプが近いですから。それに、後衛に関しては高町隊長より上手く教えられると思ったので、指導を引き受けることにしたんです」

「キャロはどうですか?」

「そうですね。潜在能力は凄いものがありますよ。僕よりも断然上です」

ユーノがきっぱりと断言する。

「やっぱりそうですか」

そのことに、分かってはいたもののティアナは少しばかり落ち込む。

「凡人の私としては、少し羨ましいです」

もう吹っ切れたとはいえ、羨ましくないといえば嘘になる。

「ランスターさんが凡人ですか?」

「そうです」

ユーノが尋ねたことにティアナが答えると、ユーノは少しばかり変な表情をした。

「あの、質問をしてもいいですか?」

「え? は、はい、どうぞ」

「どうして自分が凡人だと思うんですか?」

「だって、隊長達はもちろんですけどスバルやキャロ、エリオと比べると私はどうやっても凡人です。魔力や潜在能力、どこも勝てません」

当然のようにティアナが言う。
けれど、

「それは『彼女達』と比べると、ですよね?」

「……え?」

「僕は少しばかりランスターさんのデータを見させてもらったこともあります。話で貴女のことを聞いたこともあります。それを統合して考えると、貴女は絶対に凡人じゃありませんよ」

世間一般から見れば、間違っても凡人ではない。
だからユーノは不思議に思った。
何をどうすれば、自分が凡人などと思うのかを。

「そんな……。同情しなくてもいいですよ」

「同情じゃないですよ」

ユーノがティアナの言うことを否定する。

「僕みたいな普通の人から見れば、貴女は凡人とは程遠いですよ」

「スクライア先生が普通の人?」

「違いますか?」

「だってあの模擬戦を見たら……」

とても凡人には思えない。
それに無限書庫の司書長が凡人なはずがない。

「そう言ってくれるのは嬉しいんですけどね。でも、それなら考えてみてください」

「何をですか?」

「自分を凡人とした『理由』から鑑みて、僕はどうなのかを」

決して責めるように言うわけでない。
ただ、諭すようにユーノは語る。

「ただのデータで見るなら、ランスターさんは僕よりも上なんです」

そこは間違ってはいけない絶対の事実。

「それに、ヴァイスさんだってそうでしょう?」

ヴァイスだってそうだ。
ティアナよりも魔力量も潜在能力もない。

「だからランスターさんが凡人なら、僕やヴァイスさんは劣等種ですよ」

「で、でもスクライア先生もヴァイス陸曹も凄いじゃないですか!」

二人の経歴がそれを物語っている。

「だとしても、僕達は君の魔力には到底及びません。潜在能力だって劣っています。僕に至っては、攻撃をする術もほとんど持ち合わせてはいません。ランスターさんの理論で考えると、貴女は僕よりも凄いんです」

そうですよね? とユーノは付け加える。

「…………それは……」

少しだけうろたえるようにティアナは目線をさ迷わせる。
ユーノはそんな彼女を見て、少しだけ申し訳ないように思う。

──後でヴァイスさんに怒られるかな?

そして浮かんできたのは、先ほど名前を出した人物。
彼の意中の人だから、もしかしたら怒られるかもしれない。

──けどね。

後々ヴァイスに怒られるとしても、やめることはできない。
歩みを止め、真っ直ぐにティアナを見据える。

「一つ、ある話をしましょうか」

「……え?」

「10年前、僕は高町教導官……ここでは高町隊長ですね。僕は高町隊長、ハラオウン隊長、八神部隊長にクロノ提督──これはハラオウン隊長の義兄ですが、僕はその4人と一緒にいました」

今はもう懐かしい日々のことをユーノは思い返す。

「10年前……」

「ランスターさんは高町隊長やハラオウン隊長の強さを知っているでしょう?」

「……はい」

「八神部隊長も、あれでヴォルケンリッターを従えるほど優れています。ランク的には、4人の中で一番でしたね」

普段の彼女からはあまり想像できないが、本気を出したはやては本当に凄い。

「そして、クロノ提督は彼女達とほぼ同じ実力。もしくは少し下ぐらいに位置する魔道師です」

彼女達に少しばかり劣っていたとしても、間違いなくトップレベルの魔道師。

「僕はね、その中にいたんです」

鬼才と呼ばれる少女達がいて、秀才と呼ばれる少年がいて、その中でただ一人……サポートするしか出来ない自分がいた。

「ここまで言ったら分かりますよね。僕は10年前、ランスターさんと同じ状況だったんですよ」

「私と同じ状況……」

確かにそうだ。
今の自分の位置と10年前のユーノの位置は似ている。

「でも、比較する相手は……わかるでしょう?」

「……なのはさん達ですよね」

「そうです。僕の比較対象は彼女達です」

ティアナが比べている相手とは、明らかにレベルが違った。

「劣等感とか、そういうレベルじゃありませんでしたよ。比較すること自体が間違いでしたから」

「そんな! 間違いなはずないです! だって、スクライア先生は模擬戦でなのはさんとフェイトさんを──!」

「あれはクロノ提督がいたからです。僕一人じゃ勝つことなんて出来ません」

攻撃方法がほとんどないのだから、不可能と言っても過言ではない。

「僕一人では、彼女達に勝つことなど到底無理です」

そう、勝てるはずがない。

「魔力も才能も明らかに劣ってるんですから」

断崖絶壁の壁が……抗えない壁が存在する。
ティアナとは違い、彼女達に追いつく、追いつかないではない。
競うことすら不可能。

「スクライア先生……」

「だから僕は『彼女』の心だけは絶対に護ると誓ったんです。護りたいと願ったんです。自分が辛いときでも全てを背負おうとする『彼女』に、少しでも楽になってほしかったから」

指きりをして、心から願った。

「だけど……」

“もしも”出来るのなら。
“もしも”自分に力があったのなら──

「──やっぱり、思うんですよ。僕にもう少し力があれば彼女を『護れる』のに。後ろからサポートするだけじゃなくて、前に出て相手を倒して『守る』ことができるのに、と」

昔からずっと……それは今も抱いている想い。

「本当に何度、思ったことでしょう」

何かがある度に、その感情は浮かんでくる。

「あの……」

ティアナが何かを言おうとする。
でも、ユーノは笑ってティアナを見た。

「心配しないで大丈夫ですよ。今の話で知ってほしいのは、ランスターさんはナカジマさんやキャロ、エリオと『比べる』ことが出来る、ということを言いたかっただけですから」

「比べることが出来る、ですか?」

「ええ。だから劣等感を抱くことができるんです」

そう、ティアナは『比べる』ことができる。

「それは本当に……羨ましいことです」

劣等感すら抱けない自分にはできないことだったから。

「あと、もう一つ」

間違って欲しくないことがある。

「ランスターさんは戦闘において……つまり魔力量や戦闘技術において、自分は凡人と思っているかもしれません」

確かに戦闘において、それは重要だ。

「でも、戦闘は魔力だけでやるものですか?」

「違います」

「そうです。戦闘は魔力や潜在能力だけでするものじゃないです」

彼女にだって分かっているはずだ。
別に先天性の才能だけが戦闘の結果を左右するわけじゃない。

「例えば……そうですね。僕は高町隊長達より魔力も戦闘能力も潜在能力も全て、どれもが圧倒的に劣っています」

さっきいった事実。
これは曲げられない。

「だけど、戦闘というのはそれだけじゃないですよね」

ティアナが自分を凡人だと思っているのなら、知っているはずだ。

「ランスターさんのことだから分かっているとは思いますが、同じ立場にいた先輩の意見として言っておきます。純粋な力が無いと思うのなら、それ以外の力を磨いてください。洞察力や発想力、何でもいいです。時にはそれが『力』よりも重要なことがありますから」

それが10年前、同じ立場にいた人物だからできる最初で最後の助言。

「僕は今も昔も、戦場で彼女達を……『彼女』を守ることは出来ないけれど……」

その場にいたとしたら、守られてしまう。

「でも、貴女は違うでしょう? 少なくとも僕よりは『力』があって、キャロやエリオ、ナカジマさんを『守る』ことができるんです」

「……スクライア先生」

「だから僕が保障してあげますよ。ランスターさんは凡人だとしても、ただの凡人ではありません」

ユーノはティアナを凡人だと思わないけれど、本人がそう思うのならこう言ってあげよう。

「貴女は僕よりも実力のある凡人です」

「私が……ですか?」

「もちろんです」

ユーノが大きく頷いた。

「一応、総合Aランクの僕が本気で言っているんです。自信が湧いてくるでしょう?」

ユーノが笑いながらティアナに言ってあげる。。
ティアナは最初のほうこそ驚くような表情を浮かべていたが、次第に笑顔になっていくと、

「はいっ!」

元気よく返事をした。

「あの、そういえばスクライア先生は……」

と、ここでユーノがあることに気付いて、

「ユーノでいいですよ。皆、僕のことはそう呼んでますから」

「なら、ユーノ先生でいいですか?」

「それでいいですよ」

「私のこともティアナって呼んで下さい」

ティアナの提案にユーノが頷く。

「それで、ユーノ先生はなのはさん達と幼馴染なんですよね──」

ティアナとユーノが改めて歩き出す。
が、ここである青年が少々引きつった表情で登場した。

「ん? ヴァイスさんじゃないですか」

ヴァイスの名をユーノが呼ぶ。
普通ならば、挨拶を交わして……と、なるところだが、今回は違った。

「ちょ、ちょっと先生!」

ヴァイスは二人の下に辿りつくと、ユーノをティアナから少し離れた場所へと連れて行き、右腕を首に回した。
そして顔を引き寄せてひそひそと話す。

「どうしたんですか?」

「あいつのこと、口説いてたわけじゃないっすよね?」

「……はい?」

一瞬、ユーノが呆けたような表情になる。
が、理解した瞬間、大きく慌てた。

「ど、どうして僕がティアナさんを口説かなきゃいけないんですか!?」

ヴァイスの腕の中で抗議する。

「僕には恋人いるんですよ!」

「いや、んなことは分かってるんですけどね。どうもさっきのやり取りを見ると……」

ティアナの表情から察すると、手を出しているようにしか見えなかった。

「何を言ってるんですか。ヴァイスさんの好きな人なんですから、手を出すわけないでしょう!」

少しだけ言葉を強くして、ユーノが言う。

「というか、僕にはフェイトがいますから誰にも手は出しませんよ」

最高の女性が恋人であるというのに、どうして他の女性に手を出す必要があるのだろうか。

「……まあ、そうっすよね」

「なら、どうしてそんなことを言うんですか?」

ユーノがヴァイスに問う。
すると返ってきた答えは、

「俺、あいつのあんな笑顔見たことないんですよ」

「……それはヴァイスさんが彼女を喜ばせてない所為でしょうが」

ふざけたことを抜かすヴァイスに、すかさずツッコミを入れる。

「ヴァイスさんのことです。どうせ喜ばせるようなことしてないんですよね?」

「そりゃ……してないっすけど」

「だったらしてくださいよ」

文句を言う前に。

「んなこと言われても、出来るなら苦労してないっすよ」

自分の性格上、好きな相手に好意を簡単に見せることが出来ない。
……恥ずかしくて。

「あの、どうしたんですか?」

不審に思ったティアナが尋ねてくる。

「いえ、ちょっと男同士の会話をしていただけです」

あまりに女々しい内容だったけれど。

「それで、ヴァイスさんは仕事の途中だったんじゃないですか?」

首に巻いてあるヴァイスの腕を外しながら、ユーノが言う。

「ああ、そうだった。そんじゃ、俺はもうちょい仕事があるんで一旦消えますぜ。また後で顔出しますよ」

「分かりました。僕とティアナさんは食堂でフェイトを待ってるんで、来てくださいね」

「了解!」
























〜ヴァイスと二人が別れて数分後、別の場所では〜






「フェイトちゃん、食堂に行って何するんや?」

「ティアナに試験のことを訊かれてね。だから、昼食ついでに話をしようと思って」

「ふ〜ん。なら、私も一緒に昼食しようかな」

偶には部下と一緒にご飯を食べるのもいいだろう。

「うん。大歓迎だよ」

フェイトが笑いながら了承すると、はやてが、

「で、最近ユーノ君とはどうなんや?」

親父根性丸出しで訊いてきた。

「どう? って言われても普通だよ」

大して報告することはない。

「普通っていうと、どこまでや?」

「どこまで?」

「あんなラブラブなんやから、もうキスぐらいはしたんか?」

「し、してないしてない!」

手を左右に大きく振りながら、フェイトが否定する。

「…………はい?」

フェイトのまさかの返答に、はやてが一瞬止まった。

「えっと……どういう……?」

数秒、うなりながら考える。
と、ここで何か思いついたのか、手をポンと叩くと、

「ギャグ?」

「ギャグじゃないよ!」

速攻でフェイトが否定する。

「それならどうしてや? 別にしたくない、というわけやないんやろ?」

はやての問いにフェイトが頷く。

「あのね。その……タイミングが……判らなくて」

顔をだんだんと赤くしながらフェイトが言う。

「タイミングって……」

そんなもの二人に必要なのか? と非常に問いたくなるところを、はやては堪える。
面白い人影が見えたからだ。

「噂をすれば影や」

はやてはフェイトの肩を叩いて、食堂のある一点を指差す。

「あれ、ユーノ君やろ?」

「え? ホントに?」

フェイトが目を凝らす。
すると、すぐに表情が明るくなった。
どうやら正解らしい。

「ん? けどもう一人いるみたいや」

近づいていくと、実はユーノが一人ではないことが判った。

「あれは……ティアナか?」

食堂にいる人物を思い浮かべると、おそらくはそうだろう。

「珍しい組み合わせやな」

知り合いかどうかすらも怪しい二人だ。
はやてが珍しがるのも分かる。
だが、

「…………ユーノとティアナが二人っきりで話してる」

「フェ、フェイトちゃん?」

その光景を見て、納得できないのが一人いた。

「ごめんはやて。ちょっと行ってくる」

言うや否や、フェイトははやてを置いて、凄い勢いで二人の下へと向かう。
そして二人の前に立つと、

「ティアナと仲良さそうだね」

声を掛けた。
無論、声に普段の温かさは微塵も無い。
あるのは……ただ一つ。
凍えるような冷たい台詞。
はやてはそれを少し離れたところで、ニマニマしながら傍観する。

「ホント、ユーノ君は愛されてるな」

くすくす、とはやては笑い、そして一つだけユーノに言葉を送る。

「ユーノ君、ご愁傷様」


















〜その時のユーノとティアナの会話〜






「ユーノさんはヴァイス陸曹と仲良いんですか?」

「好きな女の子の話をするくらいには、仲が良いですよ」

「好きな女の子の話……ですか」

「ええ」

ユーノが素直に頷く。

「あ、あの……その……ヴァイス陸曹って好きな人……い、いるんですか?」

「いるみたいですよ」

というか、自分の目の前にいる。

「じゃ、じゃあその人のことをユーノ先生は知ってますか?」

「もちろん知ってますよ」

今、話しているのだから。

「どんな人ですか!」

ティアナが強い口調で尋ねる。

「えっと……僕が言ってもいいんでしょうか?」

さすがにまずいような気がする。

「お願いします! 特徴だけでもいいので」

けれど、ティアナも引き下がらずにもう一度お願いをする。
と、ここでユーノがあることに気が付いた。

「……もしかしてティアナさん、ヴァイスさんのこと──」

「ち、違います。別にそういうわけじゃなくて、気になるとかじゃないんですよ、本当に!」

ユーノでさえも嘘だと分かるような否定をするティアナ。

──これなら特徴を言っても問題ないかな?

なんとなくティアナを思わせるような特徴を言っておこう。
なんせ自分は無限書庫の司書長。
語彙は星の数ほど持っている。

「ヴァイス陸曹が好きな人の特徴は──」

そうユーノが言いかけたときだった。












「ティアナと仲良さそうだね」












温かさの欠片も無い、絶対零度の声がユーノに掛けられた。

「──っ!」

瞬間、ユーノの体が完全に硬直する。
声の質から、顔を見ずとも怒っているということだけは分かった。
ユーノはゆっくりと顔をフェイトへ向ける。

「あ、あのハラオウン執務──」

「ユーノ?」

寒気のするような笑顔でフェイトが問う。

「フェ、フェイト。ちょ、ちょっと落ち着いてくれると──」

「私は仕事をしてたのに、ユーノはティアナと楽しくお喋りしてたんだ」

「いや、待ってよ!? 僕は君の部屋まで行ったけどいなかったから、ティアナさんに──」

「ふ〜ん。『ティアナ』さん?」

「そ、それはさっき話してる流れで『ティアナ』さんになっただけで、別に何か思惑があるわけじゃないよ!」

ユーノが全力で弁解を始める。
悪いことは一つもしていないのに。

「あの、八神部隊長」

ティアナが遅れてやって来たはやてに近づいて話しかけた。

「フェイトさんが怖いんですけど」

「気にせんでええよ。多分、ティアナに文句は言わんから」

基本的に、フェイトがああいう態度を取るのは……というより、ああいう態度を取れるのはユーノだけだ。
他の人には、ああいう態度をほとんど見せたことがない。
恋人のユーノだけにする、特別な態度。

「だからティアナさんとは話をしてただけだってば!」

「それにしては、すごい楽しそうだったけど」

「それは話をしてたわけだし、それなりに楽しくなるよ」

「でも、私といる時より楽しそうだった」

「そ、それはないってば!」

絶対に、100%ありえない。

「本当に?」

「本当だよ」

ユーノはフェイトの手を握り締める。

「僕は君といるときが一番だって」

それは未来永劫、確実に変わらない。

「はやてといる時よりも?」

「もちろん」

「なのはといる時よりも?」

「もちろん」

「エリオといる時よりも?」

「もちろん」

「キャロといる時よりも?」

「当然だよ」

ユーノが断言する。
とはいえ、別に子供達といるのが楽しくないわけではない。
ただ、子供達といるときは、喜怒哀楽の『楽』という感情より『喜』が出てくる、というだけだ。
大事にしてない、ということは断じて無い。

「そっか。なら、許してあげる」

フェイトが心底嬉しそうに笑った。












そして、それを少し離れた場所でティアナと見ていたはやては、

「フェイトちゃん。さりげなく自分が『一番』だってこと聞き出したな」

「……あんなフェイトさん、初めて見た」

ティアナが少し呆然とした。

「まあ、私も恋人同士になった二人に会ったのはこれが初めてや。あれがユーノ君と一緒にいる時のフェイトちゃんか」

部隊長の『フェイト』ではなくて、執務官の『フェイト』でもなくて、親友の『フェイト』でもなくて、母親の『フェイト』でもない。

──ユーノ君のことが大好きな『フェイト』ちゃんか。

「独占欲丸出しやん」

どのフェイトでも見られなかった姿。
これはユーノだけしか引き出せない姿だろう。

「ユーノ先生とフェイトさん、付き合ってるんですか?」

「そうや」

ティアナの問いに、はやてが肯定する。

「まあ、あんな素敵な方でしたら、確かにフェイトさんともお似合いですよね」

まだほんの少ししか話していないが、それでも素晴らしい人だというのは理解できた。

「なんや、ユーノ君のこと狙ってたんか?」

「そ、そんな大それたこと出来ないですよ!」

「そうやな。そんなことやったら、フェイトちゃんに殺されても文句は言えんよ」

あのベタ惚れっぷりなら、それも否定できない。

「だ、大丈夫ですって。だって私──」

と、ティアナは途中まで言いかけたところで、慌てて口を閉ざした。

「続きは何や? 『だって私』の続きは?」

「な、何でもないです!」

多少顔を赤らめながら、ティアナが回答を拒否する。

「残念。ティアナの好きな人、聞けると思ったんやけどな」

そう言ってはやてはニタニタと笑いながら、指をパチンと鳴らした。












      ◇      ◇












「──それで、大体こういうところを勉強してればいいと思うよ」

「はい」

「私はそのために時々、無限書庫を使ってたんだけど……」

そう言って、フェイトはユーノを見る。

「別にいいよ。ティアナさんが無限書庫を使っても」

「というわけで、こういうときはユーノに相談して」

「わかりました。ユーノさん、もしもの時はよろしくお願いします」

「ええ、わかりました」

けれど、フェイトはここでふと気付いたのか、

「でも、ユーノに手を出したら許さないよ?」

「は、はい」

「ならよし。あとはまあ……その都度教えるから、困ったら連絡してくれていいよ」

「ありがとうございます」

ティアナが頭を下げる。
と、ここで丁度よくさっきの青年がやって来た。

「うい〜っす。来ましたぜ、先生……って八神隊長もいるんすか!?」

「おお、ヴァイス君やないか」

はやてが手を挙げる。

「おお、じゃないですよ。八神隊長、俺に対する変な評価を先生とかに言わないでくださいよ。先生と始めて会った時に焦りましたよ!」

「ええやん。間違ってないんやから」

「間違ってますよ!」

ヴァイスははやてに軽くツッコミを入れたところで、今度はユーノとフェイトをまじまじと見る。

「……へぇ」

二人が仲睦まじく隣り合って座っているのを見て、感嘆の声をあげる。

「どうしました?」

「お似合いじゃないっすか、先生とフェイトさん」

ヴァイスがそう言った瞬間、フェイトが喰いついた。

「ほ、本当にそう思う?」

「もちろんっすよ」

雰囲気というか気配というか。
なんとも幸せそうな感じがしている。

「ユ、ユーノ! お、お似合いだって」

顔を赤くしながら、上目遣いでユーノを見る。
瞬間、ユーノの表情も微かに赤くなった。

「あの、先生。ちょいといいっすか?」

すると、そんなユーノの表情から何かを察したのか、ヴァイスがユーノを手招きする。
ユーノは少し不思議に思いながらも、ヴァイスの下へと歩いていく。
そして始まったのは……男同士の密談。

「ありゃ、やばいっすね」

「分かります?」

「男なら確実に死にますよ」

悶え死ぬ、というやつだ。

「ずるいですよね、あれは」

「普段と違った魅力ってのが、どれほどの威力を醸し出すのか理解させられましたぜ」

しかもフェイトほどの美人がそれをやるから、性質が悪い。

「あげませんよ?」

「……いや、自分から死のうとする馬鹿はいませんよ」

もし奪おうとする輩がいたら、攻撃魔法を開発してでも滅殺されそうだ。

「というか先生だって渡す気ないでしょう?」

「当たり前です」

「…………ご馳走様」

最終的にユーノの惚気で、密談が終わった。
























「そういえば、ユーノは何か用事があったの?」

「いや、本当は考古学士としての仕事があったんだけど、先方の都合でなくなったんだ。それで無限書庫に行ったんだけど、司書達に追い返されちゃって。だからフェイトの顔を見に来たんだ」

「それで、フェイトちゃんがいなかったから食堂に来たんか?」

「そういうこと。まあ、フェイトの顔も見れたし、後は子供達の様子を見たら帰ろうと思ってるよ。他の人達に迷惑は掛けられないしね」

「ん〜、私は別に迷惑やなんて思わないんやけど……」

長年の付き合いだ。迷惑と思うはずもない。

「それに、せっかく暇なユーノ君が昼間からいるんやし…………そうや! ユーノ君、今日の午後の訓練、特別講師にならへん?」

「……なんだって?」

「せやから、特別講師にならへん?」

「いや、特別講師って……なのはは?」

「なのはちゃんはスバルと一緒に昨日から仕事で出張してる。残ってるのはティアナとライトニングだけや。ティアナは今日、休みやったな?」

「はい、そうですけど」

「それならライトニングの特別講師、やらへんか?」

考古学士兼無限書庫司書長。
そして総合Aランク魔道士。
文句は絶対に出ない。

「僕は別に構わないけど……」

そう言って、フェイトを見る。

「私が拒否すると思う?」

するわけがない。

「そっか。なら、やらせてもらおうかな」

部隊長に言われて、ライトニングの隊長に言われたら拒否する理由は無い。

「あの、私も参加していいですか?」

おずおずとティアナが手を上げる。

「こういった機会はあまりないと思うんです。ですから、参加させてください」

「了解や。ティアナも参加してええよ」

そしてはやての視線はヴァイスへ。

「というわけで、ヴァイス君も参加やな」

「俺もっすか!?」

唐突に振られて驚くヴァイス。

「こういうのは面白いほうがええんよ」

「まあ、今日はもう仕事はあんまりないからいいっすけど」

軽いノリでヴァイスが了承する。

「じゃあ、最初は授業みたいなのやってもらって、その後は軽い演習と模擬戦でどうや? 面白そうやろ?」

はやての提案に、フェイト、ヴァイス、ティアナの順に、

「賛成1だよ」

「賛成2だ」

「賛成3です」

「もちろん、私も賛成や。というわけで、ええか?」

はやてがユーノに確認を取る。

「それでいいよ」

ユーノが一つ頷いて、晴れてユーノ特別講師が生まれたわけだが……

「けど、授業って何すればいいの?」

「何でもええよ。考古学でもええし、くだらない与太話でもOKや」

「それ、ちょっとアバウトすぎない?」

「問題なし。というわけで、フェイトちゃんはエリオとキャロに教えといてくれるか?」

「了解、今すぐ連絡するね」

フェイトがすぐに二人と連絡を取り始める。

「これから、ホントに面白なりそうや」


















      ◇      ◇



      〜〜割愛〜〜


















「──はい、今日はこれでお終いです。皆、ご苦労様でした」

今日一日の最後。
つまり模擬戦が終わると、ユーノが終了を宣言した。

「こういったことは初めてだったんですけど、どうでしたか?」

ユーノは授業と演習、模擬戦を通じての感想を皆に聞く。

「最初の授業、面白かったです。私は『宝石と魔力の関連性』については、すごく興味が湧きました」

「俺はその後の『無限書庫のひ・み・つ』だな。あれには笑わせてもらった」

「僕は演習で驚きました。あんな演習はやったことがなかったので」

「私は最後の模擬戦です。ユーノさんとフェイトさんのコンビが凄かったです!」

「ていうか、あれは凶悪だな。さすがの姐さんも先生、フェイトさん、エリオの三人と勝負するときは本気だったぜ。つーか、微妙に顔が引きつってたな」

模擬戦は3対3、メンバーはユーノ、フェイト、エリオ。
もう一方はシグナム、ティアナ、キャロだった。
ちなみにシグナムは治療のため、シャマルの所に行っている。

「あれはユーノ先生が時折シグナム副隊長に茶々を入れるからですよ。ただでさえフェイトさんの相手をしてるのに、時折バインドが飛んでくるんですよ? さすがに辛いですよ。私にも時々バインド飛んできましたからすごく嫌でした。というか、それに捕まってエリオに攻撃されましたし」

その時のことをティアナは思い出す

「しかもチビ竜とキャロはユーノ先生に封じられる。あれでどうやって勝てって言うんですか!」

ティアナが吼える。
だが、

「そこを考えるのがティアナさんの役目ですよ」

「そうだよ」

ティアナの咆哮は、ユーノとフェイトによって終わった。

「キャロは根っからのアシストだし、シグナム副隊長は……戦闘大好きですからね。指揮を執るのはティアナさんの役目です」

「それはそうですけど……」

「高町隊長やハラオ……もといフェイトやシグナム副隊長の場合は、馬鹿げた魔力でゴリ押しできますけど、僕たちは無理ですからね。その分、考えないといけないですよ」

そう思うと、なのはやフェイトはユーノ達より考えなくていいから楽だろう。

「チーム戦の場合は、状況にあわせて最適の行動を取ったり、取らせたりしてください。まあ、フェイトやシグナム副隊長を扱うのは非常に厳しいと思いますけど。でも、これがティアナさんの必要とする技術の一つだと思います」

「はい」

「頑張ってくださいね」

戦闘を指揮するべき人が、このメンバーではティアナなのだから。

「ヴァイスさんもティアナさんに一言くださいよ」

「お、俺も!?」

驚きつつも、ヴァイスはティアナを見た。

「えっと……その……なんだ。頑張れよ」

「あ、ありがとうございます」

一瞬、いい雰囲気が二人の間に出来そうになる。
だが、

「何や何や。 皆がもう集まってるってことは、模擬戦終わったんか?」

はやての声が、それを台無しにした。

「……」

「……」

ヴァイスとユーノが同時に溜息をついた。

「……へ?」

「……恨みますぜ、隊長」

ユーノの素晴らしいトスのおかげで良くなった二人の雰囲気がぶち壊された。

「ど、どないしたんや?」

「いや、何でもないっすよ」

少しだけぶすっ、とした表情でヴァイスが答える。

「な、なら、ええんやけど……」

首をかしげながら、一応納得する。

「それで、はやては何しに来たの?」

「あ! そうそう、それや」

思い出したかのように、はやてが人差し指をピッ、と立てる。

「ユーノ君がせっかく講師をしてくれたのに、何もせんで返すのも、と思ってな。今夜は皆と一緒にご飯でもどうや?」

瞬間、フェイトと子供二人の顔が輝いた。

「いいんじゃないっすか。俺は大いに歓迎だ」

「そうですね。私ももう少しユーノ先生の話も聞いてみたいですし……」

ティアナは同時に、ちらりとヴァイスを見る。

「というわけで、皆賛成してくれてるみたいやけど?」

「え、でも──」

そう言いかけたところで、左右の手をキャロとエリオに掴まれた。

「駄目です。父さんに拒否権はありません」

「なので、一緒に食べていってください」

言って二人は顔を見合わせると、同時にユーノを六課宿舎へと引っ張っていく。

「うわっ! ちょ、ちょっと二人とも!」

「エリオ君、このまま食堂まで行こうか?」

「そうだね。父さん、もしかしたら逃げるかもしれないし」

本当は逃げないことなど分かりきっているが、三人はそのまま宿舎の中へと入っていく。

「フェイトちゃん、ええのか?」

「いいよ。ユーノだって嬉しいみたいだし、問題ないんじゃないかな」

ユーノの表情を見ずとも、嬉しがっていることぐらいは分かる。

「なら、ええか」

「うん」























おまけ1




ヴァイスとティアナ。


──六課宿舎に帰る最中──






「さっき、キャロとエリオ、ユーノ先生のこと『父さん』って言ってましたね」

「ああ。なんか二人とも先生の子供になったみたいだぞ。こないだ先生と一緒に飯食ったときに言ってた」

「えっと……いいんですか? それで」

「いいんじゃねえの。先生もエリオもキャロも嬉しそうだったしな」

「まあ、そうですね」

「お前はどうなんだ? もしかして先生を狙ったりだとかしてんのか?」

ヴァイスが無関心な表情で……しかし内心、かなりの決意を持って訊く。

「し、してませんよ、そんなこと!」

「そっか。ならよかっ……」

危うくヴァイスが本音を言いそうになる。

「どうしたんですか?」

「な、なんでもない!」

「え、あの?」

「い、行くぞ!」

言ってティアナを強引に引っ張るヴァイス。

























おまけ2




エリオとキャロ


──夕食後の会話──






「おとーさん、凄かったね」

「そうだね。一緒に戦闘してみて、やっぱり凄いって思ったよ」

「優しくて、格好よくて、頭が良くて、戦闘が出来るおとーさんか」

「僕達、凄い人が父さんなんだよね」

こんな父親、そうそういない。

「それに母さんも優しくて、美人で、頭がよくて、凄く強いからね」

「そうだね、おかーさんも凄い人だよね」

こちらも、そうそういない母親だ。

「最高の両親だね」

「うん。そうだね」

自分達のことを大事にしてくれて、大切にしてくれる。
本当に大好きな両親を、二人はほのぼのと語った。












おまけその3




はやてとシグナム


──医務室にて──






「──それで、今度ユーノはいつ来るのですか?」

「い、いきなりどないしたんや?」

はやてが医務室にいるシグナムを見舞ったところ、いきなり尋ねられた。

「無限書庫での勤務などで鈍ってると思っていましたが、間違いだったようです。今度対戦をする場合は、確実にユーノを戦闘不能にしようと」

どうやら今日の模擬戦でユーノに思うところがあったらしい。

「でも、その話聞いたら確実にユーノ君来なくなるやろな」

「どうしてですか?」

「いや、さすがに戦闘不能にはなりたくないやろ、普通」












おまけ4


いるはずなのに登場しなかった二人。








仕事の帰り道、

「あれは……」

二人の男女が歩いているのが見えた。

「仲、良いみたいですね」

「そうですね。本当にお似合いですよ、あの二人は」

「確か……恋人でしたよね、あの二人」

部隊長から聞いた噂によると、だが。

「そうですよ」

疑問に答えたのは、歩いている男のほうから事実を聞いたことがある人物。

「羨ましいですね、ああいうの」

「……ええ、本当に」
















登場人物:グリフィス&ルキノ













おまけその5

本当のおまけ




ユーノとフェイト


──帰路──








歩きながら、いつものごとく言葉を交わす。

「ちょっと……寒くなってきたね」

「そうだね。少し、寒くなってきたかな」

と、ここでフェイトの手がユーノの手に軽く当たった。

「ちょっと手が冷たいね。大丈夫?」

「大丈夫だと思うけど……」

言いながら、フェイトは両手を擦る。
が、やはりすぐに温かくはならない。
すると、だ。

「ね、フェイト」

「なに?」

「手、繋ごうか」

ユーノが右手を差し出す。

「ユーノが手を繋ごうって言うの、珍しいね」

「僕もそう思う。今、結構恥ずかしい」

フェイトがユーノの顔を見れば、夜なのに赤く染まっているのがよく分かる。
それが嬉しくて、フェイトはすぐに手を差し出した。

「いつもフェイトが顔を赤くしながら言ってくれるのもいいけど、偶には僕からもね」

差し出された手をぎゅっ、と握る。

「いい加減、慣れたいんだけどな」

ユーノとしては、手を握るだけで緊張するのは卒業したい、という気持ちはある。

「でも、いつまでもこの気持ちを持てるのは、私はいいことだと思うよ」

確かに初々しいと言われるかもしれない。
けれど、

「手を繋ぐ度に、ユーノのことが『好き』だって実感できるから」

その度にユーノのことが好きだって分かるから。

「だから、もうちょっとこのままでいいかな」

フェイトはトン、と頭をユーノ肩に乗せる。








二人は少しだけ、歩く速度を落とした。





























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