二十話

『貴方へのプレゼント』
























ユーノとフェイトが付き合い始めて二週間ほど経ったある日のこと。

「街にでも行かない?」

ユーノは電話先の人──フェイトにある提案をした。

『ユ、ユーノと一緒に?』

「もちろん。けど、発案はキャロとエリオ君だよ」

ユーノが付け加えるように言う。
その瞬間、

『──え!?』

「ん? どうしたの?」

『……キャロと……エリオが……一緒なんだ』

フェイトの声が急激に冷たくなった。

「フェ、フェイト……もしかして怒ってる?」

『怒ってない』

冷たい声が即答する。

──いや、絶対怒ってるって。

「怒ってるだろ?」

さきほどより少しだけ強くユーノが詰問する。
するとフェイトは……少しだけ拗ねた声を出した。

『だって……』

「だって?」

ユーノが鸚鵡のように聞き返す。

『だってデートだと思ったんだよ』

付き合い始めて二週間ほど。
そろそろそんな電話が来るんじゃないか、と少しばかり期待していただけに今回の電話は多少、ショックではあった。

「──っ! そ、そっか……ごめん」

ユーノが慌てて謝る。

「ホント、ごめんね」

気が回っていない、というのは完璧にこのことだ。
仕事をしている二人にとって、休みの日が合うのはなかなかない。
今のところは、ユーノが余りに余っている有給を使ってフェイト達に休日を合わせている形だ。
けれど付き合い始めてからはフェイトがなかなか休みにならず、二週間以上も経ってようやく取れた休日で……これだ。
確かにすごく申し訳ない気分になる。
でも、

「今回のことは僕が二人に『大丈夫だよ』って言ったんだ」

『どうして?』

フェイトが問う。
未だに機嫌は直ってないようだ。

「このあいだ、二人には恋人同士になったって言ったよね」

『…………うん』

エリオとキャロを呼び寄せて、恋人同士になったことを報告をした。
二人とも快く喜んでくれたのは、ユーノとフェイトの記憶に新しい。

「けどね、そのことで二人とも僕達に遠慮するような雰囲気になってたんだよ」

『そう……だった?』

「少なくとも僕の前ではそうだったよ。何か言おうとしてるのに、躊躇ってる感じがあった」

子供ながらに遠慮してるんだろう、というのはユーノにだってすぐ分かった。

「僕はね、僕たちが恋人同士になったからって二人に遠慮してほしくないんだ」

『それは私だってそう思う』

「だから、だよ。本当は二人とも躊躇ってたんだけど、僕が『大丈夫だよ』って言って、二人を説得して言わせたんだ」

『……そうなんだ』

「ごめん。期待……してた?」

少し希望を込めてフェイトに訊く。

『…………うん』

「今度はちゃんとデートに誘うから」

『絶対……だよ』

「うん、絶対」

ユーノが断言する。
すると、ようやくフェイトも機嫌を直したようで、

『じゃあ、許してあげる』

ユーノが安心するような声音で言った。
























細かな約束事を決めると、携帯の電源ボタンを押してユーノはフェイトとの通話を切った。

「…………ふぅ……」

携帯をポケットに入れると、ユーノは一つ息を吐いた。

「あれはずるいよな」

彼女の拗ねた声や、気落ちした声音。

「声だけなんだけど……」

どうしようもなくかわいい、と思ってしまった。

「……もう、駄目かも」

改めて、彼女に参ってることを自覚させられた。


















      ◇      ◇


















後日──約束の日。

朝から4人は仲良く街を歩き回った。






「あそこに入ってみない?」






「あ、あそこも面白そうです!」






「そろそろ、こういう服も買わないといけないんじゃないかな」






などなど、午前中は何かおもしろいものがあったらその都度足を止める、といった形で過ごした。
昼食はフェイトが作ってきたので、それを4人でおいしくいただく。
そして、そろそろ午後も動き始めようかなというとき、

「もしもし?」

ユーノの携帯に電話が入った。

「えっと……ああ、お久しぶりです」

『────────────』

「いえ、その節はお世話になりました」

ユーノが丁寧に返す。
電話してきたのは彼が懇意にしてもらっている人だった。

「それで、今日はどういったご用件で?」

だが、ふと嫌な予感がしたユーノは電話相手に何の用か尋ねる。

「今、ですか? 今は街のほうに出てますけど……」

『──────────────』

「は!? いや、あの……ですね。僕は今、家族と一緒にいるんですよ。ですから──」

『───────────』

「いえ、だから──!」

ユーノが叫ぶ。
が、時既に遅かった。
通話は切れている。

「…………またか……」

ユーノは通じてないと分かると、ゆっくりと携帯電話を耳から離した。

「……どうしてあの人は僕の言うことをちゃんと聞いてくれないんだ」

お見合いのときも、あの人は早とちりしてこっちの言うことの聞く耳を持たなかった。

「…………まったく……」

小さく愚痴のようなものを言うと、ユーノは3人へ向く。

「ユーノ……?」

フェイトが一度、彼の名前を呼ぶ。
ユーノは弱々しくフェイトに笑顔を向けると、言った。

「皆、まだ買いたいものとかあるよね?」

「私は……まだ何個かあるけど」

フェイトがユーノの質問に答える。

「キャロとエリオ君は?」

「僕もちょっとあります」

「私もです」

次いでキャロとエリオが答えた。
ユーノは三人の回答に少し考えると、

「ごめん。そしたらさ、ちょっと自由時間を作ってもらってもいいかな?」

「自由時間ですか?」

「僕は少し寄らなきゃいけないところができてね。その間、皆には自由に買い物しててほしいんだ」

先ほどの電話相手を考えると、痛みさえ発しそうな頭を押さえてユーノは説明をする。

「どのくらいいなくなるの?」

フェイトがユーノに訊く。

「えっと……大体30分か40分くらい、かな」

「仕事の都合?」

「……うん、そうだね。仕事の都合……になるね」

せっかくの家族サービスの時なのに、仕事の都合で少しだけ抜けるなんてことは言いたくないが……どうしようもない。

「本当にごめん。すぐに戻ってくるから……ほんのちょっとだけ抜けるね」

ユーノは申し訳なさそうに言うと、すごい勢いで三人の前からいなくなった。
あまりの速さに一瞬、三人は呆気に取られたが、すぐに気を取り直すと、

「エリオとキャロはどうする?」

「僕はちょっと買い物して、そのあとは面白そうな場所を見つけたので、そこに行こうと思ってますけど……」

「あ、私もエリオ君と一緒に行くよ」

エリオの案にキャロが同意した。

「フェイトさんはどうします?」

「私は少し見て回りたいところがあるんだ。だから二人とは別行動かな」

「わかりました」

「それじゃあ、30分後にここでね」

そう言ってお互い、ヒラヒラと手を振って別れた。




















子供達とも別れて、フェイトが一人で向かったのは……ジュエリーショップ。
初めてユーノとキャロと一緒に出かけたとき、寄った場所だ。

──あるかな?

フェイトは店内に入ると、ネックレスのコーナーへと向かう。
とはいっても、選ぶのは自分のではなく男性用のネックレス。
なぜかといえば、

──記念になるよね。

ユーノと付き合うことになってから、ずっと考えていた。
恋人になったんだから何かプレゼントしようって。

──いつも私だけ……もらってるから。

今も胸にあるネックレスを想う。
ユーノからは色々なもの──物や絆をもらっているのに、自分は何もあげていない気がする。
だから何か『形』になるものを……付き合った記念として残したかった。

──どれにしよう。

少し前から考えていたので大体絞り込めてはいるが、そこから先は全然決まっていない。

「…………えっと……」

と、フェイトが悩んでいたその時だった。

「何かお困りでしょうか?」

店員がフェイトに近づいてきて話しかけた。

「あの、黄色の宝石がついた男性用ネックレスをある人にプレゼントしたいんですけど……何か良いのはありませんか?」

フェイトは幸いとばかりに尋ねる。
すると店員の女性は微笑んで、

「それならこちらはどうでしょうか」

フェイトが選んでいた場所から3,4メートルずれた場所を指した。
店員が指差した場所をフェイトが見てみると、そこには……ダイアモンドにも負けない光沢を持つ黄色の宝石があった。

「…………きれい……」

フェイトが思わず感嘆の声を漏らす。

「これは何て言うんですか?」

「こちらはスフェーンといいます」

「……スフェーン、ですか?」

フェイトには聞き覚えがない宝石だった。

「はい。光沢などはダイアモンドにも決して劣らない宝石なんですよ」

「……へぇ、そうなんですか」

フェイトは軽く驚く。

「他にも黄色い宝石というと、メジャーなところではトパーズ。少々知名度が劣るものだとイエロー・ダイアモンドやイエロー・ジルコンなどもあるんですが、もしお客様が男性の方にプレゼントするのであれば、こちらがよろしいと思いますよ」

「どうしてですか?」

フェイトの質問に、店員はくすりと笑う。

「この宝石の宝石言葉は────」






























「ありがとうございました」

店を出て行く一人の女性に、店員は一礼をする。

「綺麗な方でしたね」

隣にいた同僚が声を掛けてきた。

「そうですね」

特に否定をするわけでもなく、店員は頷く。

「前も一度だけ来られた女性なんですが、その時は御家族の方とご一緒だったんですよ」

「あら、そうなんですか。よく覚えてましたね」

感嘆の声を同僚が発した。

「あれだけ綺麗な女性はあまりお見えになられませんし、お子さん連れでしたから印象に残っていたんですよ」

だが、付け加えるように店員が言うと、

「…………え……?」

すぐに呆気に取られた表情になる。

「すでにお子さんがいらっしゃるんですか、あの方?」

「ええ、とても可愛らしいお子様でしたよ」

だいたい10歳くらいだっただろうか。とても素直そうな子供だった。

「お父さんも優しげな方で、よくお似合いでしたし……」

だから今回、女性が男性用ネックレスを選ぶと言ったとき、すぐに彼女の夫を思い浮かべたし、おそらく彼女の意向に沿った品物も提供できたと思っている。

「……人は見た目によらないんですね」

一方で、同僚は驚くだけだった。

「もうちょっとお若いと思ってましたよ」

すでに子供がいるとは……少し以外だ。

ただ「子供がいる」と言われれば、まあ…………納得できなくもなかった。


















      ◇      ◇


















店員にお礼を言って、フェイトは店から出る。

「いい買い物したな」

手にあるのは、さきほど買ったネックレス。

「あと買わなきゃいけないのあったっけ?」

連なっている店を一通りフェイトは見回す。
おそらく、もう買うものなどないと思ったが、一応最後の確認として見回す……予定だった。

「あれは……時計のお店かな?」

フェイトは一つだけ気になる店を発見した。
そして吸い寄せられるようにそちらへ歩いていく。

「……腕時計だ」

ガラス張りのウィンドウには腕時計が見える。

「これってペアウォッチ?」

大きさ以外は全てが同じ腕時計が隣り合って並んでいるのだから、おそらくそうだろう。

「ペアウォッチ……か」

ふとフェイトが悩むような仕草をした。
一瞬にして心に浮かんだのは……ある感情だった。

「ペア……ウォッチ」

そしてもう一度呟いた瞬間、彼女は一瞬で財布を取り出し、残りの残額を計算した。


















      ◇      ◇


















「ごめん! 出来る限り急いで用事を終わらせたんだけど……」

用事を終えた帰ってきたユーノが、既に集まっていた三人に訊く。
多少息が切れているところを見ると、本当に急いで来たんだろう。

「全然待ってないから大丈夫だよ」

ね、とフェイトはキャロとエリオに同意を求める。
二人とも素直に頷いた。

「おとーさん、そこまで急がなくても大丈夫でしたよ」

「僕達もほんの少し前に来たぐらいですから」

要約すると問題ない、とキャロとエリオが言う。
決して責めない二人の物言いに、ユーノもようやく一息吐く。

「なら、よかった」

そしてにこやかに笑った。

「それじゃ、行こうか」

わずか30分ばかりといえど、抜け出してしまったことは確か。
だから、埋め合わせをするためにユーノを張り切った。




















      ◇      ◇




















そして午後も十分に楽しんだあと、4人は機動六課の宿舎まで帰ってきた。

「今日はここで解散だよ」

ユーノだけは帰る場所が違うので、ここで別れることになる。

「もちろん無限書庫の訓練はなし。いいね」

「はい」

返事をするキャロの顔に不満の表情は無い。
たまにしかない休日をユーノと……というよりは、気兼ねなしにずっと「おとーさん」と呼べてご満悦なのだろう。

「それじゃあ、僕は帰るよ」

三人に手を振って、ユーノが帰ろうとする。
と、その時、

「ユーノ、ちょっと待って!」

フェイトがユーノを呼び止めた。

「どうしたの?」

「途中まで送るよ」

「えっと……いいの?」

フェイトの申し出はとてもうれしいが、面倒じゃないだろうか。
そう思ってユーノはフェイトに訊いたのだけど、

「もちろんいいよ」

フェイトは気にすることなく笑って、ユーノの隣に並んだ。

「エリオ、キャロ。ちょっとユーノを送ってくるね」

そして二人に向かってフェイトは言うと、ユーノと一緒に歩き出した。






















並んで歩く。
前よりもお互いの距離が狭まったと思うのは、気のせいではない。
何せ今は恋人同士なのだから、当然のことだ。
けれど、まだ手は繋いでいない。
双方の共通した理由としては、未だに照れがある、というのがある。
もちろん、それは二人の性格と今までの経緯を見れば納得できる理由。
ただ、フェイトはさらに理由があった。

──えと……これくらい離れたら大丈夫だよね。

ユーノにプレゼントを渡すことを考えていたから。
左右を見回して誰もいないことをフェイトは確認する。

「ね、ユーノ」

「なに?」

「あのね、ユーノにプレゼントがあるんだ」

「プレゼント?」

「うん」

フェイトは言うと、ポケットの中から一つのケースを取り出す。
そして、そのままユーノの前でケースを開ける。
すると彼の目に映ったのは……

「腕……時計?」

一対の腕時計がユーノの前にあった。

「そうだよ。一緒の腕時計を買ったんだ」

少しだけ恥ずかしそうに、フェイトが言う。

「そ、そっか。一緒の腕時計なんだ」

ユーノもフェイトの表情と言葉に顔を赤くした。
が、ふと……ほんの小さな疑問が生まれる。

「あれ? でも、どうして腕時計だったの?」

取るに足らない疑問ではあるが、少しだけ気になった。
数々の物の中から、どうして時計だったのだろう。
恋人同士になってからのプレゼントだ。
そしてフェイトだからこそ……何かしらの意図があるのだとユーノは思う。

「ちゃんと理由はある……けど」

「教えてもらってもいい?」

ユーノが尋ねる。
フェイトは彼の問いに対して、素直に頷いた。

「あのね──」

フェイトは真っ直ぐにユーノを見る。

「ユーノが腕時計を着けたことで…………」

彼の瞳を見詰めながら、買うときに思ったことを話す。

──ユーノがこれを着けてくれることで……

「煩わしいと思うなら、その度に私を思いだしてほしいんだ」

この腕時計を渡した自分を、思いだしてほしい。

「煩わしくなかったとしても、時計を見る度に私を想ってほしいんだ」

この腕時計を渡した自分が、彼の心に浮かべばいいと思う。

「たぶん……腕時計なんて本当にいらないから、煩わしい……が合ってるのかな」

私達にとって、基本的に腕時計なんてものは必要ない。
使う必要性がない。
ただ単に邪魔だということは分かってる。

「だからユーノは嫌かもしれないのは分かってる。それでもね……私は──」

少しだけ、フェイトは言葉に詰まる。

「……………………」

本当にどうしようもない感情だった。

「すごい……わがままだと思う」

まだ付き合ったばかりなのに。

「すごい……独占欲だと思う」

まだ二人の関係は始まったばかりなのに……彼を縛ろうとしてる。

「それぐらいは……分かってるよ」

分かっている……けれど……






「でも、ユーノのことがすごく…………好きだから」






だから願うんだ。

「いつでも私のこと……想っていてほしい」

常に彼に想われていたい。

「いつでも私のこと……考えていてほしい」

どんな時でも、彼の頭を占めていたい。

「いつでも私はユーノと……繋がってると思いたい」

ずっと……常に……いつも……彼の意識を自分に向けてもらいたい。
自分の意識を彼に向けていたい。

「だって……」

これからもずっと──




「いつまでも私のこと……好きでいてほしいから」




一生、ユーノに想われていたいから。

「いつまでもユーノのこと……好きでいたいから」

一生、ユーノを想っていたいから。

「だから……着けてほしい」






























ユーノはゆっくりと…………左腕をフェイトの前に出す。

「着けてくれる?」

フェイトの顔がみるみる明るくなっていく。

「うんっ!」

輝くような笑顔になって、フェイトはユーノの手首に時計を着け始める。
多少手間取りはしたものの、しっかりと……想いを込めるように腕時計を彼に着ける。
フェイトが手を離すと、ユーノが一度だけ時計を撫でる。
優しく……慈しむように。
そして、

「それじゃ、フェイトも手を出して」

もう一つの腕時計をフェイトから受け取り、彼女の右手首に巻く。

「ちなみに僕も……同じだよ」

「……え?」

「僕だってフェイトにいつも考えてもらいたいし、いつも想われていたい。それは僕も同じ」

「……本当?」

「本当だよ。君が誰か男の人と一緒にいて、話してたり笑ってたりしたら、絶対に嫉妬するよ。たぶん、心の狭さなら僕のほうが狭いんじゃないかな」

きっとそうだと思う。

「だって僕はクロノでも嫉妬するよ」

彼女の義理の兄にも、きっと嫉妬する。
だから自分のほうが嫉妬深い……とユーノは思っていたのだが、それはフェイトも同じ。

「でも、私はなのはやはやて……キャロに嫉妬したよ」

彼の親友に、彼の友人に、彼の娘に嫉妬した。

「なら、同じくらいの心の狭さなのかな」

「そうみたいだね」

お互い、笑い合う。

「あとね、もう一つ貰って欲しいの……あるんだ」

「もう一つ?」

「うん」

ポケットから、もう一つのプレゼントを取り出す。

「これ……なんだけど」

ケースを開けて、ユーノに見せる。

「ネックレス?」

「そうだよ」

少し恥ずかしそうにフェイトは答える。

「これは……?」

ユーノはまじまじとネックレスを見る。
透き通るような黄色い宝石。
あまりにも純粋な色で、鮮やかな光彩。
目の前の女性を連想させる……そんな宝石だった。

「これはね、スフェーンって言うんだ」

「へぇ、これが……」

聞いたことはあるが、実物を見るのは初めてだ。

「最初はね、サファイアが付いてるネックレスにしようかな……とも思ったんだけど……」

「サファイア? どうして?」

ユーノの問いに、フェイトは少し不気味な感じでにこり、と笑う。

「サファイアの象徴ってね、浮気封じなんだって」

フェイトの話を聞いた瞬間、ユーノが少しだけ固まった。
が、すぐに、

「う、浮気なんてしないって……」

取り繕うようにユーノは言う。
その様子にくす、とフェイトは笑った。

「分かってる。そう言ってくれるって思ったから、これにしたんだよ」

だから……これを選んだ。
この宝石の宝石言葉──そのうちの一つが、何よりも今の自分を象徴していたから。




──永久不変──




彼への想いは変わることがないことを如実に表していた。
永久に変わることができない。
ただ真っ直ぐに、純粋に、一途にユーノだけを想い続ける。


自分の……生涯を掛けて。


別に、誰かから決められたわけじゃない。
別に、誰かから定められたわけじゃない。


自分が望んで、自分で定めた……永久不変の想い。








「これも付けていい?」

ユーノの言うことに、フェイトが頷く。

「なら、付けちゃうね」

ユーノはフェイトの持っているケースからネックレスを取り出して付ける。

「どう?」

フェイトに尋ねるユーノの胸には、彼女からもらった宝石が輝く。

「すごく似合ってるよ」

フェイトはユーノがネックレスをしてくれたことにほっ、と胸を撫で下ろす。
そして少し恥ずかしそうに、

「ちょっとだけ──」

──私の『ユーノ』になった気がする。

ユーノに聞こえないくらいの小さな声で、付け加えた。

「なに? 何か言った?」

「う、ううん。何も言ってないよ」

さすがにユーノに言うのは恥ずかしいのか、フェイトは首を振る。

「そういえば、どうしてこれにしたの? これも意図があって選んだみたいだけど」

さきほど、彼女は「だからこれにした」と言っていた。
ということは、スフェーンにしたのも何かしらの意図があったんだろう。

「え!? そ、それは………………」

不意な質問にフェイトが少し動揺する。

「それは?」

「宝石言葉が……え、永久不変なんだって」

フェイトの顔が瞬間沸騰する。
顔から火が出るほど恥ずかしい。

「あの……だからこれにしたんだけ……ど……」

フェイトは自分の顔が、完全に真っ赤になったのが分かる。

「えっと……その……」

まさかこんな回答が返ってくるとは思ってなかった。
ユーノは左右にきょろきょろと視線をさまよわせる。

──ど、どうしようかな。

そしてユーノはフェイトから聞いたことを受けて、あることを言おうか言わないか迷う。

──ホント……どうしよう。

これを言うのはさすがに恥ずかしい。
考えるだけでも顔が火照った。

──でも、言ったらフェイトは喜んで……くれるよね。

目の前の女性を見る。
きっと、フェイトは喜んでくれるだろう。

「…………それなら……」

小さく、決意をする。
ユーノの大好きな彼女の笑顔が見れるなら、恥ずかしくても言うべきなんじゃないかって……言いたいなって思う。
だから、

「今だから言うんだけどね……」

「……え?」

「君にあげたペリドットの宝石言葉……知らなかったわけじゃないからね」

言うと、ユーノはすぐに歩き出す。
きっと自分は今、さきほどのフェイトと同じように顔が真っ赤だという自信があった。

「ユ、ユーノ? その…………えっと……今のは……」

一方で、ユーノに激白されたフェイトは一瞬、呆けるように彼の後姿を見た。
が、すぐに彼の言った言葉を理解すると、フェイトは極上の笑みを浮かべて、

「ユーノ、ちょっと待ってよ!」

軽やかに走って彼を追いかける。
いつも照れくさいはずなのに、今だけはユーノの手を簡単に握れる気がした。





















〜〜おまけ〜〜

帰る途中での会話の続き。







「そうだ。時計代半分払うよ」

「いや、いいよ。私が勝手に買ったんだし」

独断で買ったものなのだから、ユーノが払うのはおかしい。
でも、

「駄目。時計は僕と君の二人分あるんだし、それに──」

ユーノはちょっと手を強く握り締める。

「分け合ったほうが、なんかうれしいんだよ」

気分の問題ではあるけど、分け合ったほうがユーノはうれしかった。

「それにもう一つ、うれしいこともあったし」

「なに?」

「初めてフェイトに『好き』って言ってもらった」

にこにこと笑いながら、ユーノが告げる。

「……そうだっけ?」

「そうだよ。今までフェイトは一度も僕に『好き』って言ってないよ」

ユーノがはっきりと断言する。

「……私、てっきり言ったと思ってた」

これだけ彼のことを想っていて、しかもこのあいだ、感情を盛大に吐露したのだからてっきり言ったと思っていた。

「気にしてた?」

「うーん……気にしなかったって言うと嘘になるかな」

どれだけ想われているのが分かったとしても、やっぱり“好き”といわれるのは、格別の感慨がある。

「でも、もう気にしてないよ。フェイトに“好き”って言ってもらえたから」

それに繋いでいる手から、気持ちはちゃんと伝わってきた。

「ちなにみ僕の場合、君を抱きしめて言ったのは二回目だからね」

「二回目?」

「君に“好き”って伝えたのが、だよ」

「──えっ!?」

衝撃の告白にフェイトがうろたえる。

「い、いつ!? 一回目はいつ言ったの!?」

本当に慌てて、フェイトが問い詰める。
が、ユーノはそんな彼女を可笑しそうに見詰めながら、

「それは内緒」

おどけるように言った。






































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