第二話
『特訓』
次の日の訓練終了後、さっそくキャロはユーノの元へと向かって指導を受けていた。
「じゃあ、まず最初にデバイスを外してくれるかな」
「デバイスをですか?」
疑問に思いながらも、素直にケリュケイオンを外すキャロ。
「デバイスは基本的に魔法への補助──分かり易いのは魔法の構成、展開をスムーズに行ったり、インストールされている魔法をデバイスの判断によって使ったりする、ということは知ってるよね?」
ユーノの質問にこくり、とキャロは頷く。
「キャロがしたいのは上手な防御魔法の仕方と同時展開の仕方。まあ、最初は防御魔法についての特訓なんだけど、そのために必要なことは何か分かる?」
今度は頭を横に振る。
「防御魔法の構成を自分でしっかりと把握すること。デバイスの補助なく、自分で全て構成して初めてダメな点が見えてくるからね」
「あっ、確かにそうです」
納得した声をキャロが出した。
「それじゃあ、まずはラウンドシールドをやってみようか」
ユーノがキャロを促す。
「はい!!」
思い切りのいい返事を皮切りにして、キャロはラウンドシールドを構成し始めた。
いつものように魔法を……と、ここでキャロは普段よりも数倍、魔法構成に手間取っているのを感じた。
常にデバイスに頼って細部まで意識して構成していないことが、すぐに感覚として現れる。
それでも、文句は言っていられない。
いつもより遅いことに焦りながら、魔法を構成して展開した。
「……出来ました」
時間にしておそよ4秒。
これがデバイスが無い状態でのキャロの限界。
「なら、そのままシールドを展開してて。これから僕のバインドで攻撃してみるから」
ユーノはキャロに言うと、すぐさまチェーンバインドをキャロのシールドに向けて放つ。
キャロは慌ててユーノのバインドを止めようとしたが、善戦する間もなく簡単にラウンドシールドは破壊された。
「……あっ……!」
強い攻撃でもないのに簡単に砕けた。
ユーノはそれを見て、なぜ簡単に砕けたのか──その理由を述べ始める。
「キャロ。まずは落ち着いて構成をすること。デバイスの補助がなくて遅いと思うのは仕方がないことだけど、だからといって構成をおろそかにしていいわけじゃないよ。どんなにゆっくりでもいいから細部に至るまでしっかりと構成、把握すること」
さらにユーノは続ける。
「あと、もしかしたら構成がちょっと間違ってるかもしれないから、まずはそこから考えてみよう」
とりあえずとしての所見を言うユーノ。
けれども決して責めるように言うわけでなく、優しく諭すようだ。
「は、はい! 頑張ります!」
簡単にシールドが壊れてしまったことで多少気落ちしそうになったキャロだけれど、ユーノの言葉にすぐにやる気を出す。
「じゃあ、頑張ろうね」
◇ ◇
キャロとの話し合いの結果、やはりラウンドシールドの構成にも多少問題点があったようで、そこをすぐに修正することにした。
あとはひたすら訓練あるのみ。
ゆっくりでもいいから、しっかりと魔法の構成を細部に渡って丁寧に張り巡らせる。
そうすることを一時間掛けて、まずは体に沁みこませた。
「今日は大体このくらいかな?」
時間を見計らってユーノが終わりを宣言する。
「え? でも……」
まだまだ出来る、といった感じの返事がキャロから返ってくる。
「焦っちゃダメだ。キャロは明日も訓練があるんだから、無理する必要はないよ。今日を無理して、明日の訓練で怪我でもしたら……と思うと、ちゃんと休息する時間は作らないとね」
「それは……そうですけど」
「僕との特訓も明日だって、明後日だってあるんだ。だから今日は休むこと。これは師匠からのお願いだよ」
困ったような笑顔を浮かべるユーノ。
その顔を見るとキャロも申し訳ない気持ちになった。
「分かりました。今日はもう休みます」
「うん。ちゃんと休むんだよ」
そう言ってユーノはキャロをドアへと促して、連れて行く。
「局内だからといっても夜だからね。僕はまだ、やることがあるからキャロを送れないんだ。だからフリードがしっかり守ってあげて」
ユーノが頼むと、白銀の飛竜は任せろと言わんばかりに、
「クゥ〜!!」
一つ鳴いた。
「それじゃ、お疲れ様。また明日だね」
「はい、お疲れ様です。今日はありがとうございました」
ペコリ、と頭を下げるとキャロとフリードは自分の部屋へと戻っていった。
ユーノはキャロを見届けると、椅子に座って携帯電話を手にとる。
そして登録してある番号に掛け始めた。
数コール鳴ったあと、電話が繋がる。
「もしもし、フェイト?」
『ユーノ? 久しぶりだね。どうしたの?』
掛けたのは、知り合ってからもう10年にもなる幼馴染。
「さっきまでキャロが僕のところにいたからさ。後でいいから無事に帰ったかどうかを一応確認してもらおうと思ってね」
『あれ? キャロとユーノって知り合いだったっけ?』
電話越しでも、ユーノにはフェイトの不思議がっている顔が浮かぶ。
──キャロから聞いてなかったのか。
心の中で、少しだけ嘆息する。
「昨日キャロが僕の所に来たんだ。それで僕に弟子入りしたいって言ってきたんだよ」
『何で昨日…………昨日って何かあったかな。……たしか…………あ! そういえば……』
一瞬フェイトは疑問に思ったみたいだが、すぐに昨日の訓練内容を思い出したようだ。
「フェイトの想像している通り、かな。昨日なのはが見せた模擬戦のデータが、キャロを僕のところに来させたみたい」
『そっか』
「彼女を弟子にするのはダメだったかな?」
『いや、キャロが自分で決めたんだったら私は全然文句無いよ』
相手に見えないのに、フェイトは右手をぶんぶんと振った。
──あの子が自分で決めたからこそ、そこには一欠けらだって文句はないよ。
何より相手がユーノなのだから、さらに文句は出ない。
「そう言ってくれると僕も助かるよ。ちゃんと師匠をするってキャロと約束したからね」
昨日会って話して、それで師匠をするとキャロに……そして自分自身に約束した。
『そうなんだ。それでユーノ先生から見てキャロはどう? 強くなれそう? だいじょうぶかな? 危ないことはしてないよね?』
唐突にフェイトがユーノを問い始める。
ここら辺は最近のフェイトの特徴だろうか、少々過保護っぽい。
「当然だけど危ないことはしてない。あと素直でいい子だから覚えが早いね。すぐに実力は伸びると思うよ」
実際、彼女の持っている力は大したものだとユーノは感じている。
「僕が彼女にしてあげられるのは、基本的に防御魔法の強化と魔法の同時展開の仕方。防御魔法に関してはキャロ自身に強い力があるから、君やなのはみたいにバカ魔力で防御するのもありだろうけど……僕としては僕の構成する防御魔法を教えてあげたいね。そのほうが硬くて魔力消費も抑えられる」
『……貶してない?』
「け、貶してなんかないって。それだけ二人が凄い実力を持ってるって言ってるだけだよ」
ユーノが慌てて否定する。
──実際に君はSランクなんだから。
そんなこと、思うわけない。
『でも、そしたら結構な時間、訓練しないといけないんじゃないかな?』
「確かにね。同時展開の訓練もするんだから、下手したら数ヶ月は訓練しないといけないと思う」
けれど教える以上、一切の妥協はしたくない。それで少しでもキャロが強くなるのであれば。
それがユーノの考えだ。
『……長いね』
「けどさ、やるだけの価値はあるよ、きっと」
今後、何が起こってもいいように。
何があっても対処できるように。
『……うん。私もそう思う。だからキャロのこと……お願いできるかな』
それは隊長として、キャロの保護者としての言葉。
ユーノはフェイトからそれを感じ取ると、しっかりとした想いを持って、
「任せて。僕の出来うる限りで頑張るから」
フェイトに返した。
『……ありがとう』
「うん。それじゃ、伝えたいことはこれだけだから。……お休み」
『お休み』
携帯の電源ボタンを押して通話を切る。
──これから忙しくなるかな。
キャロに分かり易いよう色々なことを教えなければならない。
けれどそれは決して苦ではなくて、どちらかと言わなくてもうれしいことだった。
他の誰でもない……ユーノ自身にとって。
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