貴方がいてくれる。




『君がいてくれる』




それがたまらなく嬉しい。




『それがたまらなく嬉しい』






「私はね、ユーノと逢えて本当に幸せだよ」




「僕はね、フェイトに逢えて本当に幸せだよ」






私の幸せは貴方が教えてくれたこと、気付いてる?




『僕の幸せは君が運んでくれたってこと、気付いてる?』




ユーノのおかげで、キャロとエリオの母親になれたこと。




『フェイトのおかげで、キャロとエリオに出会えたこと』




貴方が私の恋人になってくれたこと。




『君が僕の恋人になってくれたこと』




ぜんぶぜんぶ、ユーノがいるからだよ。




『その全部が、フェイトがいるからなんだよ』








── だから知っていてほしい ──








過去にあったことも。




未来にあることも。








── その全てが ──








今の幸せに繋がるんだということを。
























「My family」外伝


『original strikers』







第六話

「 striker の意味」













































ルーテシアはキャロとエリオを睨みつける。

「貴方達にはわからない。優しくしてくれる人がいた、友達がいた……愛されてる。私が大切な人は皆、私のことを忘れて行っちゃう」

ルーテシアは先ほどのキャロの言葉を忘れているのか、孤独だということを前面に出して言葉を吐き出す。

「一人は……いやだ」

再びルーテシアの下に魔方陣が展開される。
先ほどよりも大きく、強大な力が周囲の大気を震わせる。
ふと頭上をキャロが見ると、巨大な魔方陣がそこに存在していた。

「寂しいのは、もう嫌だ」

そして魔方陣から巨大な召喚獣がとてつもない速度で落ちてくる。
ルーテシアは召喚獣──白天王を召喚し終えると、二人に向かって叫んだ。

「一人ぼっちは嫌だ!!」

ルーテシアの感情に呼応して、白天王が轟く。
あれほどの召喚獣が暴れれば、自分たちはおろか周囲の人々にまで甚大な被害が出ることは、キャロとエリオでも容易に想像できた。

「キャロ!」

「……うん」

一呼吸おいて、キャロは両腕を左右に広げる。
細心の注意を払って魔方陣を編み、決して感情に押し流されないで展開し始める。
襲撃されたときのようにはしない。

──おとーさんに言ったから。

もう、思うがままにヴォルテールは召喚しない。
ただ、理性を要してヴォルテールを召喚する。

──護りたい。

エリオを。
ルーテシアを。
護れる力が欲しい。

──お願い。

誰かを傷つけてしまう力でも、使い方では誰かを助けられるはずだから。
今、その使い方をキャロ自身が一番望んでいるから。
手伝ってほしい。

「──天地貫く業火の咆哮」

まだ貴方を使うのは怖いけど。

「遥けき大地の永遠の護り手、我が元に来よ、黒き炎の大地の守護者」

心から誰かを護りたい時は助けてくれると思うから。

「竜騎招来、天地轟鳴。来よ……」

助けてくれると信じているから。

──力を貸して!

キャロは右手を天に掲げる。






「ヴォルテール!!」






灼熱の炎が白天王の前に吹き荒れ、その中から黒竜──ヴォルテールが現れる。
キャロは力を暴走させることなくヴォルテールを召喚し終わると、ルーテシアと向き合う。

「確かに私には優しくしてくれる人がいるし、友達もいるよ。今はおとーさんもおかーさんもいる」

ルーテシアがいった人々は、キャロには確かに存在する。

「……でも、さっき私が言ったこと、覚えてる?」

クアットロが介入してくる前にルーテシアに言ったことを。

「私はルーテシアさんの友達になりたいって言ったよ。だから貴女が困ってるなら助けてあげたい。お母さんを助けたいなら、私は手伝ってあげたい」

「……嘘だ」

「嘘じゃない! 友達になりたいのに、嘘なんて吐かない!」

「嘘だ」

「嘘じゃないよ!」

「──嘘だっ!!」

ルーテシアの絶叫を切っ掛けとして、白天王がヴォルテールに襲い掛かる。
と、同時にインゼクトをキャロへ放つ。
キャロは咄嗟に手を前へと突き出す。

「──っ!」

インゼクトが直撃する直前、ラウンドシールドがキャロの前に展開された。
シールドはインゼクト全てを防ぎきり、キャロは怪我一つなくルーテシアと相対する。

「……それにね、一人ぼっちは嫌だってルーテシアさんは言ってるけど、それでも私たちには召喚獣がいるよ」

キャロにはフリードが。
ルーテシアにはガリューが。
いつもいてくれたはずだ。

「大切なパートナーを召喚師のわがままで悲しませたら駄目だよ」

キャロはエリオと対峙しているガリューに目を向ける。
ガリューの目から血のような涙が流れているのが、キャロの視界に映る。
キャロにはそれが、本当に泣いているように見えた。

「……………………」

けれど、ルーテシアにキャロの声は届かない。
聞こえていても、伝わっていても、理解されていたとしても……彼女の心には届いていない。

全てを拒み、全てを否定し、全てを拒否する。

甘い言葉であれば妄言だと拒み、優しい言葉であれば真実ではないと否定する。
それが今のルーテシア。
操られている少女の心の在り方。

「………………地雷王」

二匹、ルーテシアの背後に地雷王が飛んでくる。
そして彼女の背後で二匹並ぶと、攻撃態勢に入った。
キャロはルーテシアのすることを察知すると、

「フリード」

白竜を自分の下へと呼ぶ。

「大丈夫だよね?」

キャロが視線で合図を送る。
フリードからは頷きが返ってきた。

「おとーさんから教えてもらったもんね」

防御の仕方やフリードの攻撃の仕方だって、父親から教わった。

「私はルーテシアさんを助けたい。だから……」

操られている彼女を救うために。

「いくよ」

ケリュケイオンが輝きはじめる。

「ブラストレイ」

右手の桃玉から放たれる光が、フリードへと集まる。
その力を受けて、フリードは火炎を収束し…………圧縮する。
圧縮し終えると、地雷王とフリードは数秒間お互いをにらみ合う。
そしてキャロとルーテシアの掛け声で、同時に攻撃した。

「殺して!」

「ファイア!」

雷撃と収束された爆炎がぶつかり合う。

「……ルー……テシアさん……!」

「…………っ……!」

最初は伯仲かと思われた攻撃も、少しずつキャロとフリードが押していく。
このままブラストレイが雷撃を押し切るかと思った矢先、キャロは少しだけ魔力を弱めた。

──私がやりたいのはルーテシアさんを傷つけることじゃないから。

傷つけるのでなく、この状態のままルーテシアの魔力を枯渇させる。
何体もの召喚獣を召喚してきた彼女よりは、自分のほうがまだ余力がある。
このままぶつかり合っていれば、いつか彼女の魔力も尽きるだろう……と、キャロが短絡的に考えていた瞬間、雷撃とブラストレイが爆散した。

「──っ!」

「……っ!」

フリードと地雷王二匹は衝撃で吹き飛ばされ、空中へと放り投げられる。
キャロとルーテシアは咄嗟に張ったバリアで、ぎりぎり屋上に止まることができた。

「…………はぁ……はぁ……はぁ……」

「……ルーテシアさん」

けれど互いの様相は一目瞭然。
肩で息をし、魔力も歩くことも絶え絶えなルーテシアと、ほぼ無傷で立っているキャロ。
この状態で戦っても結果は一目瞭然。

「…………っ……!」

それでもルーテシアはキャロへ歩みを進める。

「……イン……ゼクト……!」

僅かに残っている魔力を使って、数匹のインゼクトをキャロへ飛ばす。
当然のように防がれるはずのインゼクト。
けれどキャロはインゼクトが迫ってきても……シールドを展開することはなかった。

「…………っ!」

インゼクトがキャロの頬を切る。

「…………どう……して……?」

防がれると思っていた攻撃を、そのまま受けたキャロにルーテシアが呆然とする。

「だって、友達になりたい人と戦いたくないよ。他のみんなを傷つけられるのは嫌だからさっきは頑張ったけど、今は私以外いないからルーテシアさんとは戦わないよ」

戦う必要性なんてどこにもない。

「あとね。何度も言ってるけど、ルーテシアさんは一人なんかじゃない」

自分が絶対にそんなことはさせない。

「一人ぼっちになんてならないよ。ゼストって人がいなくなったとしても、アギトって人がいなくなったとしても、召喚獣がもし……いなかったとしても。私がルーテシアさんと友達になりたいから大丈夫。それにお母さんは助かるんだから、ぜんぜん一人ぼっちなんかじゃないよ」

「……そんなの……母さんが……助かるかどうかなんて……わからない。嘘を言わ──」

「わかるよ。私はルーテシアさんのお手伝いをするし、機動六課の人たちもきっと手伝ってくれる。それに私のおとーさんは無限書庫っていうすごい図書館の館長なんだから、いろんなことを教えてくれる。だからルーテシアさんのお母さんは絶対に助かるよ」

キャロもルーテシアに歩み寄っていき、ボロボロの彼女を支える。

「……………………ルーテシアさん」

近くでルーテシアを見ると、もう意識も途切れ途切れになっていた。
本来ならば気を失ってもおかしくないほどなのに、彼女は懸命にキャロと向かい合っている。
敵意なのか、それ以外なのかはキャロには分からない。
けれども彼女は今、キャロと向き合っていた。
だからキャロも精一杯、ルーテシアと向き合う。

「……私、同い年の女の子の友達なんていないから、どうやって友達になっていいのかわからないけど……」

「………………」

「正直に気持ちを伝えるよ」

ルーテシアは何度も途切れそうになる意識をどうにか繋ぎ止めて、支えている少女に向ける。

「ルーテシアさん」

そして最後、気を失う直前にルーテシアの耳に入ってきたのは、キャロが戦場に来た理由。
それを笑顔で紡いだ。














私の名前はキャロ・スクライアです






ルーテシアさん。私の友達になってくれませんか?



















      ◇      ◇
















キャロがヴォルテールを召喚している最中、エリオはガリューと対峙する。

「ルーテシアさんはね、僕達と似てるんだ」

一人だったこと。
他に誰もいないこと。
ルーテシアだけじゃない。

「一人ぼっちは辛いってこと、僕もキャロもよく知ってる」

幼い頃、周りには誰もいないかった。
頼るなんて論外。
縋るなんて考えもしなかった。

「誰も護ってくれないし、誰かに甘えたりもできない」

父も母も祖父も祖母も兄弟も姉妹も親類縁者何もかもがいないから。

「でも、そんな僕もキャロも……ルーテシアさんだって切っ掛けはあったんだよ! 僕とキャロは母さんが! 彼女にはゼストって人やアギトって人が!」

一人ぼっちじゃなくなる切っ掛けはあったはずだ。
ルーテシアにだってあるはずだ。

「僕たちは母さんが切っ掛けで一人ぼっちじゃなくなった」

あの時、差し伸べられた手をエリオは今でも覚えている。

「ルーテシアさんは……それでも一人ぼっちになるって思ってる」

切っ掛けを切っ掛けと思えなくて、独りだと言っていた。
彼女にとってゼストは優しい人ではなく、愛してくれる人でもない。

「けれど今、新しい切っ掛けが目の前にあるのに……!」

“母親”という切っ掛けが存在しているのに。

「どうしてルーテシアさんはこんな馬鹿げた道を進もうとするんだ!」

ルーテシアは誰かを傷つけていく道を選んでる。
それでなお“幸せになろう”としているわけではなく“不幸でなくなろう”としている。

「ガリューは手伝ってやらないのか!?」

誰も傷つけないでいる道を──ルーテシアの心さえも傷つけない道を探さないのか?

「ガリューは“不幸にならない道”じゃなくて、“幸せの道”を教えてやれないのか!? 一緒に探さないのか!? どうなんだよ!」

それが主人を“護る”ということなのか?


「答えろ!!」


息が切れるほど怒鳴る。
けれどもガリューは微動だにしない。
代わりに背から触覚のようなものが伸び、両腕には三対の刃が生える。
眼からは血の涙のようなものが出ていた。

「……………………」

エリオはストラーダを構えなおす。

「……父さんは言ったんだ。戦争と喧嘩、どっちをしたい? って」

ふとエリオが思い出したように呟いた。

「僕は喧嘩って答えた」

「……………………」

「喧嘩ってさ、些細なすれ違いでするんだよね」

それが子供の喧嘩だって父親が言ってた。

「だから僕はガリューに喧嘩を挑むよ」

そして押し付ける。

「僕はガリューの在り方を認めない。そんなの“護る”って言わない」

護っているなんて言わせない。

「“護る”っていうのは、ただ守るだけじゃない。その人に進んで欲しい道を教えることも“護る”ってことだと僕は思うから」

父と母が自分にしてくれていることこそが“護る”というものだと思っている。
今、この事件が終わったら新しい道を探そうとしているエリオを見守ってくれているように。

「僕は絶対に認めない。そして間違った護り方をしているガリューを──」

──僕は。

「倒してでも止めてみせる!」

エリオはストラーダで一気に突撃する。
一回転をし、回転力を利用してガリューに上から叩きつけるように切りかかる。

「──ッ!!」

ガリューは刃の部分でストラーダを受け止める。
が、あまりに威力が大きかったのか足場が脆く崩れた。
二人はそのまま地面へと落ちていき、お互い着地したと同時に距離を取った。
エリオは乱れている息を深呼吸して、無理やり整わせる。

──もっとストラーダの速度を上げないと。

何度も戦って分かった。
ガリューには、普通に飛び込むだけはでは駄目だ。
スピードが足りていない。

──じゃあ、どうすればいい?

少し考えて……エリオは一つの答えを見出す。
そしてすぐ実行に移した。
エリオはまず、ストラーダを左手に持ち、

「紫電一閃」

電気が右手に発生する。
そのまま電気を──雷を右手に溜める。
でも、それだけではない。

「一閃…………」

左の肘を引いてストラーダの狙いを定める。

「──必中!!」

ストラーダをガリューへと投擲する。

──単純に考えて、僕の分の重さが邪魔だったんだ。

エリオがいないだけで、ストラーダの速度は格段に上がる。
放たれたストラーダはガリューの予想速度を超えて到達する。

「…………!」

薄皮一枚、ガリューにストラーダが突き刺さる。
だが、エリオがいない分、威力は損なわれて倒すには至らない。
それはエリオにも分かっている。

──あと、必要なのは二つ。

ガリューがストラーダの処理をしていると同時に、デバイス無しで魔方陣を練る。

──これは父さんに教えてもらったこと。

父から簡単な魔法はデバイスが無くても高速で使えるように、遊びながら教えてもらった。

──そして……最後の一つ。

自分が使う魔法。
エリオが今、編んでいる魔法。
それは──








「──ソニックムーブ!!」








──母さんから一番最初に教えてもらった魔法。

「うああああああああっっ!!!!」

最高速でガリューに突撃する。
そして雷を纏っている右手を全力でガリューに突き出した。

「…………ッ!?」

ストラーダの対処をしていたガリューはなす術なく、エリオのパンチを受ける。

「──ッ!!」

ガリューの顔面を捉えた瞬間、右の拳から──ミシリ──と骨が軋む音がエリオには聞こえた。
けれど、エリオは構わず右手に力を込める。

「──このっ!」

軋む音を無視しながら、痛みを無視しながらエリオはただ、真っ直ぐにガリューを睨みつける。
そして精一杯の罵声と、精一杯の気持ちを込めて拳を振りぬいた。

「バカッ!!」

拳の威力と衝撃で、ガリューが背後のコンクリートまで吹き飛ぶ。
二転、三転としながらビルの壁にめり込んだ。
砕けたコンクリートが噴煙を上げる。
数秒後、コンクリートの欠片が落ちるの音と共に、ガリューが地面に伏せる音がビル内に響いた。
エリオはゆっくりとガリューに近づいていく。
右手は折れたのか、力なくだらりと垂れていた。

「……僕の勝ちだよ、ガリュー」

ピクリとも動かないガリューに向けてエリオは言う。

「僕が言ったこと、少しでいいから考えてみてよね」

そこでエリオは初めて、笑顔を浮かべた。

















      ◇      ◇













「切り札は使わんのかね?」

捕らえたフェイトに向けて挑発的に笑う。

「まずはそこから出ないと意味がないと思うが……」

と、スカリエッティはここで考え違いをしたかのように、

「いや、切り札を使ったとしても同じか」

「……どういう意味だ?」

「ここにいる私を倒したとしても、ゆりかごも私の作品達も止まらんのだよ」

ここにいるスカリエッティを倒したところで意味は無い。

「プロジェクトFは上手く使えば便利なものでね。私のコピーは既に12人の戦闘機人たち、全員の胎内に仕込んである。どれか一つでも生き残ればすぐに復活し、一月もすれば私と同じ記憶を持って蘇る」

「……馬鹿げてる」

「旧暦の時代、アルハザード時代の統治者にとっては常識の技術さ。つまり君は、ここにいる私だけでなく、各地に散った12人の戦闘機人……その全員を一人残らず倒さねば私も……この事件も止められないのだよ!」

ナンバーズとスカリエッティ。
双方を捕まえなければこの事件は止まらない。

「それに、一つ面白いことを言ってあげよう」

睨み付けてくるフェイトの視線を真正面から受け止めながら、スカリエッティは言い放つ。

「君と私はよく似ているんだよ」

「なっ──!」

「私は自分で創り出した生体兵器たち。君は自分で見つけだした<自分に反抗することの出来ない子供達>。それを自分の思うように作り上げ、自分の目的の為に使っている」

これのどこが、スカリエッティとフェイトで違うというのだろうか。

「違うかい? 君もあの子達が自分に逆らわないように教え込み、戦わせているだろう? 私がそうだし、君の母親も同じさ。周りの全ての人間は自分の為の道具に過ぎん。そのくせ君達は、自分に向けられる愛情が薄れるのには臆病だ。実の母親がそうだったんだ。君もいずれ、ああなるよ」

母親のように。
薄い絆に怖がる人生を送る。

「間違いを犯す事に脅え、薄い絆に縋って震え、そんな人生など無意味だと思わんかね」

そんなあまりにもくだらなすぎる人生を過ごす気なのか?

「どうなんだい、フェイト・テスタロッサ?」

嘲るような笑い声を発する。
こう言えば、フェイトがどのような反応をするか分かっている。

──君の反応は手に取るように分かるよ。

惑い、揺れる。
そんな彼女の姿を思い浮かべるだけで愉悦だ。

「…………ふはははははは」

スカリエッティから思わず笑い声が漏れる。
けれど。






「…………しない」






スカリエッティの思惑──シナリオは、

「何だい?」

「…………否定はしない」

崩れる。

「……何だと?」

「否定はしない、と言ったんだ」

フェイトは惑いも揺れもせず、言い切った。

──何も違わなかった。

スカリエッティが言っていることも、あながち間違いではない。

「確かにそうだ」

言い訳も取り繕いもできない。

「私達の絆は薄かった」

いつ切れるか分からない絆だった。
いつ壊れるか分からない絆だった。








「“今まで”は」








それは過去の自分達。
『彼』が関わる前の話。

「“今”は違う」

いったいこの男は、いつのことを言っているのだろうか。

「私達の『絆』が薄いなんて思わない。私達の『絆』が薄いなんて言わせない」

誰であろうと否定させない。

「私にとって、エリオにとって、キャロにとって、『彼』にとって、この『絆』は世界で一番大切なもの」

何者も揺るがすことなんて、できない。

「私達だからこそ、他のどんな家族よりも繋がっていると信じてる」

心から望んで出来た絆。




──彼がいてくれたから、生まれた絆。




彼がいるからこそ、確固たる証拠が無かったとしても、明確な事実が無かったとしても、私は信じていられる。

「私達を繋げてくれた『彼』が、私と共にいてくれる。だから私は自信を失うことはない」

でも、仮に。

「もし『彼』がいなかったとしても、もう……この自信を失うことは無い」

私の中にある、一つの芯。
当たり前のように、当然のように私の胸のうちに存在する、大切な芯。

「これから言う言葉に虚栄も虚飾もない。私は──!」

胸を張って宣言できる。
一切の迷いを持たず、断言できる。






「私はエリオとキャロの『母親』なんだ!」






だから無意味な人生なんかじゃない。






「それだけで私の人生には意味がある!!」






フェイトはスカリエッティに向けて堂々と言い放す。
揺らぐことなく、動揺することなく。
唯一の純然たる事実を告げた。




──……けど、どうしてかな。




不意に映った姿に、フェイトの瞳が潤んだ。


──ふと、誰かに同意してもらいたいと思ったとき。


どうしてか貴方を思い出してしまう。


──誰かに頷いてほしいと思ったとき。


どうしても貴方を……思い出してしまう。


──事件が終わるでは会えないと思っていたのに。


会いたくても我慢しないと、って思ってたのに。


──どうして……。


貴方は。








──私が願った時に。








私が貴方を想った時に。








──私がいてほしいと思った時に。








私自身がどれほど会えないと思っていても








私自身がどれほどいないと分かっていても








そんなの何でもないように








私の考えを全部振り払って








貴方はここに……いるんだろう。








「……そうだよね?」








私の言ったこと、間違ってないよね?








私の言ったこと、信じていいよね?















「ユーノ」

















      ◇      ◇






















フェイトのところへ向かっている最中、声が響いてきた。
スカリエッティのフェイトに対する言葉。
そして、

『私達だからこそ、他のどんな家族よりも繋がっていると信じてる』

フェイトのスカリエッティに対する反論。

『私達を繋げてくれた「彼」が、私の共にいてくれる。だから私は自信を失うことはない。もし『彼』がいなかったとしても、もう……この自信を失うことは無い』

彼女の必死な言葉が耳に届く。

『これから言う言葉に虚栄も虚飾もない。私は──!』

追随するように彼も言葉を口にする。

「そうだよ、君は……」

『私はエリオとキャロの『母親』なんだ!』

フェイトの断言に笑みがこぼれる。

『それだけで私の人生には意味がある!』

ようやく、フェイトの姿が見えてきた。
彼女の他にも、3人ほど姿がある。
距離を縮めていき、あとちょっとで彼女の側へ……といったところで、彼女の瞳が潤んでいることに気づいた。
視線はもう、自分に固定されていた。

「……そうだよね?」

彼はトン、と軽い音を立てて降り立つ。
フェイトと目が合った。

「ユーノ」

彼女の問いかけに、ユーノは当然のごとく言葉を返した。






「もちろんだよ、フェイト」






フェイト以外の3人の視線もユーノに集まる。
いや、本当はもっと前から視線を受けていたかもしれない。
けれどユーノは彼らのことなど意に介さず、笑みを浮かべてフェイトへと歩み寄る。

「誰だ?」

トーレが構えながら問いかけてきた。
ユーノは一旦歩みを止めると、スカリエッティ達に向き直る。

「初めまして、ですね」

「君は?」

「ユーノ・スクライア。彼女の恋人ですよ」

穏やかな表情でユーノが告げる。
そして自己紹介が終わると、ユーノは再びフェイトに視線を戻す。

「出てこれる?」

「出るには出れるけど、これを使うと……」

フェイトが言い止まる。
彼女が考えていることが、ユーノにはすぐに分かった。

「でもさ、まずはそこから出ないと」

檻から出ないと、何もできない。

「……ん、そうだね」

フェイトもユーノが言ったことに納得して、素直に奥の手の一つを出す。

「ライオット」

告げると、バルディッシュが片手刀剣の形状に変化する。
そしてフェイトは一息に振りかぶると、

「──ッ!」

一刀で赤い糸の檻を切り裂いた。

「…………はぁ……はぁ……」

魔力消費が激しいのか、少しフェイトが息を乱す。

「大丈夫?」

「……うん。すぐに落ち着くよ」

フェイトは言ってライオットの刃を消す。
これで、少なくとも魔力の消費は抑えられる。

「使わせてしまっていいのかい? AMF状況下では消耗が激しそうだったよ?」

「あの檻から出る方法は今のしかないようですしね。しょうがないですよ」

ユーノはフェイトに寄り添いながら、スカリエッティと向き合う。

「それでは改めて。貴方がジェイル・スカリエッティですね?」

「そうだよ」

「一緒にいる二人は戦闘機人と考えていいんですよね?」

「ああ。トーレとセッテだ」

スカリエッティが戦闘機人二人を紹介する。
が、トーレもセッテも構えたままユーノとフェイトを睨みつけている。

「君は戦いに来たのかい?」

「一応は戦わないでいたいと思ってます。ここに来た理由は帰りに僕がいたほうが楽、という理由ですからね」

「私が負けるとでも?」

「もちろん、貴方は負けます」

ユーノの言葉にスカリエッティは失笑する。

「だがね、彼女の勝つ可能性は──」

「100%、ですよ」

ユーノも失笑する。
間違いなくフェイトが勝つとユーノは信じている。

「彼女のことを盛大に勘違いしていた貴方が、勝てると思っているんですか?」

「何か間違っていたかい?」

スカリエッティはユーノとの会話を楽しむように、逆に聞き返す。

「間違いというか、当たり前のことをさも“悪いこと”のように言うのはやめてほしいですね。あの子達はまだ子供ですから情操教育は必要なんです。なのに『逆らわないように教え込む』とか、言いがかりはよしてほしいですね」

「それが操っている。それが洗脳だと私は言っているのだよ」

「なら、世界の子育ての9割は洗脳になってしまいますね」

「…………ほう」

「あとは『自分に向けられる愛情が薄れるのには臆病だ』『間違いを犯す事に脅える』なんて、くだらなすぎて反論する気にもなりません」

「どうしてかね?」

「何がいけないんですか? 僕だってエリオやキャロ、フェイトからの愛情が薄れるのは本当に怖い。誰だってそうでしょう? なのに、怖がることが異常だと思わせる話術には感服しますよ」

言葉を巧みに用いて、普通を異常に思わせる。

「貴方はただ、普通のことを別の側面から見て言っているだけだ。僕の彼女は純粋ですから、貴方の言うことでさえ簡単に信じてしまいます。あまり迂闊なことを言わないでほしいものです」

「それはそれは申し訳ない」

簡単にスカリエッティが謝罪する。

「私は思ったことを口にしていただけなのだがね」

「思ったことを……ですか?」

「その通りだよ」

「では、一つ尋ねましょうか」

ユーノはそこで少し間を置く。
一度息を吐くと……睨みつけた。
訊くことは、ただ一つ。

「誰よりも異端で、誰よりも正常ではない貴方がどうして『絆』を語れるんだ?」

ユーノはきつく詰問する。
フェイトと子供達の絆。
どこにでもある『普通の絆』。
なぜスカリエッティが分かりきったように語っているのだろうか。

「この世で誰よりも“それ”を知らない貴方が語ることなどおこがましく、僕の目にはあまりにも惨めに映る」

想像と妄想でしかないスカリエッティの言葉。




「お前が一般論を語るなよ、ジェイル・スカリエッティ」




何が『絆』だ。
何が『間違い』だ。

「知らないことを語るほど滑稽なものはない」

「知ってはいるよ、知識としてだがね」

「絆は論理でも公式でもない。実感しなければ『理解』という意味を成さない」

「確かにそうだね」

スカリエッティが簡単に納得する。
先ほども、そして今も大して反論せずに同意した。

「………………」

「どうかしたかね?」

「……先ほどの貴方の言葉。フェイトを追い詰めようとして使った台詞なんですか?」

ユーノが言った瞬間、スカリエッティの表情がさらに愉悦に歪む。

「その通りだよ」

「けれど、でたらめな言葉を使って追い詰めようとしたわりにはあまり効果が無かった…………いや、フェイトの反応が予想とは違った」

「君は聡明だね」

ここに現れてまだ数刻も経っていないというのに、それでもほんの少しの会話から、ユーノの知性が素晴らしいのはよく理解できた。

「私はあれで彼女を追い詰められると思った。事実、『昔のフェイト・テスタロッサ』であれば確実に追い込んでいたはずだ」

想像していた通りの『フェイト・テスタロッサ』であるのならば、絶対に揺らいでいたはずだ。

「なのに、彼女は揺らがなかった」

「フェイトを甞めていたんですか?」

「ククッ、何を言う。原因は君だろう?」

彼女の反論にあった『彼』という単語。
問わずとも分かる。
自分が今、相対している青年のことだ。

「私のシナリオを狂わせたのは君だよ」

「ご冗談を。僕が天才と称される貴方のシナリオを狂わせられるはずがないですよ」

「それこそまさに冗談だ。これは事実なんだよ、ユーノ・スクライアという“予想外”の存在が私のシナリオを狂わせたのはね」

紛れもない事実だ。
スカリエッティはフェイトと──通信画面に映るエリオとキャロに一瞬、視線を向ける。

「人間、どれほどの時間を掛けようとも変えられないものは変えられない。盲目的な肯定を覚えたのであれば、それを変えることは非常に難しい。なぜなら……そのほうが楽だからだ」

考えることもせずに盲目的に崇拝することは楽で、自らに責任が及ばない。
だからこそ抜け出すことは難しい。

「けれど君はやってのけた。ユーノ・スクライアと関わることによって二人の…………いや、三人の世界観が変わった」

キャロやエリオだけではなく、フェイトの世界観も間違いなく違っている。

「二人を“救っていない”君だからこそ変化させることができた」

赤の他人である彼だからこそ。

「薄弱な三人の絆を変え、本物の家族同様の絆とさせた。薄く、弱く、あまりにも細い絆を君が大きく、強く、揺らがないほど確かな絆にした。突けば破れ、薙げば裂け、篩えば容易に崩れるはずだったものを、君が変えてしまった」

スカリエッティにとって、これが予想外の出来事。
“予想外”の存在が生み出したこと。

「事実、三人の間には盲目も何も無くなっているだろう。……これは私にとってアクシデントと言うべきものだ」

スカリエッティは両手を広げ、大袈裟に落胆してみせる。

「せっかく地上と通信できるようにしておいたというのに」

とはいえ、さして落ち込んだ表情を見せずにスカリエッティは会話を続ける。
と、ここで今まで一言も会話に加わらなかったフェイトが疑問を発した。

「どういうことだ?」

「不自然だとは思わなかったのかね?」

フェイトと……そしてユーノに挑戦的な目でスカリエッティは訊く。
ユーノは数秒考えると、スカリエッティが望む答えを返す。

「……確かに不自然ですね。貴方なら通信不能にするぐらい簡単でしょう」

スカリエッティはユーノの返答に満足げな笑みを浮かべる。

「私のシナリオではね、あの瞬間にうろたえ、荒み、完膚なきまでに反論できない彼女の姿を見せ、三人の士気を落とせると思ったのだよ。けれども彼らからは通信が入ってこない。私が言った瞬間、反論してもいいだろうに、それでも彼らは反論をしなかった」

だからこそ先ほど、ユーノ・スクライアに言った。
『三人の間には盲目も何も無くなっているだろう』と。

「その理由はあまりにも陳腐ではあるが、この私でさえ“それ”だと容易に予想できる」

彼らが何も言わなかった理由。

「信頼ですね」

「だろうね。でなければ通信を行わない理由が存在しない」

スカリエッティの言葉は自分達の母親が否定してくれると。
そう信じていたのだろう。

「たとえあの場、あの状況から彼女に応援、叱咤をしたとしても、傀儡でないという証明にはならない。絶対的な存在に叱咤をしたとしても、それは反論でも反抗でもないからだ」

傀儡が望む主人の姿を思い出させるため。
……つまりは自分達が楽をするために叱咤する。

「互いが対等であるためには、時に対することも必要である……ですか」

「そうだよ」

あまりにもユーノが望む回答をするため、スカリエッティもだんだん会話に熱が入ってくる。

「反抗しないというのは盲目であり、反対しないというのは従順であり、肯定だけするというのは崇拝であり、その全てを携えている人間はただの哀れな傀儡だとは思わんかね?」

「貴方の作品、そこの戦闘機人の方々のようにですか?」

名指しされた瞬間、トーレとセッテの眉間に皺が寄る。
けれどスカリエッティは気にせずに会話を続ける。

「その通りだよ」

「まあ、それには納得しましょう」

あながち間違っているとは言えない。

「ですが極論ですね。仮にあの子達が通信を行ったとしても、今の二人ならば盲目とは言えない」

ただ母親のことが心配で、母親に酷い言葉を投げかけるスカリエッティが嫌いだから通信を行うはずだ。

「貴方が言っているのは『貴方のシナリオ』に沿っていたときの三人の話です」

ユーノが関わらなかった時の話。

「仮に貴方のシナリオ通りだったとしても、彼女達が貴方の思い通りになっているとは限らない」

今、ここにある状況が全てなのだから。

「そうでしょう?」

「そうだね。その通りだ」


















      ◇      ◇


















一旦、会話が終わる。
するとスカリエッティは話題を変えてきた。

「それにしても、ユーノ・スクライア」

「何ですか?」

「君の名前はどこかで聞き覚えがあるんだよ。一体どこでだろうね?」

喋りながらスカリエッティはコンソールで調べ始める。

「……ユーノ・スクライア。時空管理局の民間協力者にして無限書庫司書長。そして新鋭の考古学者でもあり……P・T事件が起こるきっかけとなったジュエル・シードの発掘責任者」

だからか、と。
スカリエッティは呟く。
どうりで聞き覚えがあるはずだった。

「さらに文章上でしかないが、魔道師のランクは総合A。4年ほど前までは行っていた戦闘訓練での個人成績は、10戦……0勝0敗10引き分け」

あまりにもふざけた結果に思わず笑いが漏れる。

「相手にはSランク以上が4人も存在している。なのにAランクの君は負けていない」

格上の存在に引き分けている。

「けれどもBランク、Cランクの相手がいるにも関わらず、君は勝てていない」

一体全体、どういうことだろうか。
強きと分けて弱きと分ける。

「それが“ユーノ・スクライア”ということか」

ただ引き分ける存在。

「……面白い。実に面白い」

コンソールを閉じるとユーノに問いかける。

「君は勝たないのか、それとも勝てないのかどっちなんだい?」

「勝てないんですよ」

「なら、それこそ面白いじゃないか」

あまりにも傑作だ。

「成績から鑑みたら、君は誰かと勝負をしても勝敗はつかない。だってそうだろう? 君は誰にも勝てないのだから。私にも戦闘機人にも、下手をしたら格下のガジェットにさえ勝てない」

成績が物語っている。

「けれど君は誰にも負けない。私にも戦闘機人にも負けはしない。無論……格下など論外だ」

全く、どういった青年なのだろうか。

「君みたいなタイプは初めてだよ、ユーノ・スクライア」

聞いたことも見たこともない。

「どう言えばいいんだろうか。誰にも勝てず、誰にも負けない……そんな人物のことを」

スカリエッティは考える。

「……最強ではなく、最弱ではない。君に敵うものは存在せず、君が敵うものは存在しない」

何人たりとも敵わぬ者。
そこから導ける単語は一つ。

「言葉で捉えるのであれば、まさしく『無敵』という言葉が相応しい」

あまりに強すぎるから『無敵』なのではない。

「君に敵はいない。誰もが君の敵にならないからだ。君が弱すぎ、強すぎ、だからこそ敵は存在しない」

そしてもう一つ。
先ほど会話していて思ったこと。

「何よりも君自身が誰一人として敵と思っていない。故に……無敵だ」

目の前にいるスカリエッティにさえ、敵意をむき出したのは一瞬。

「最後だけは一応、納得してあげますよ」

あくまで一応、ではあるが。

「なら、彼女にも訊いてみるとしようか」

スカリエッティはそう言うと、ユーノの隣に寄り添っているフェイトに尋ねた。

「フェイト・テスタロッサ。君にとって『ユーノ・スクライア』とはどういう存在なんだい?」

どんな『意味』を持った存在なんだろうか。






「私は彼を『無敵』と称した。ならば君は彼をどう称する?」
























スカリエッティに問われたとき、彼のことだったからだろうか。
憎むべき相手が目の前にいるにも関わらず私は…………目を瞑って考え始めた。


──私にとって『ユーノ・スクライア』とは“どういった存在”なんだろうって。


『恋人』という関係性以外で彼のことを称すると、どういった言葉が合うのだろうか。

スカリエッティは彼のことを『無敵』と称した。

ユーノの特異性を示した言葉。

でも、私にとっては違う。




──ユーノは…………私の全部を変えてくれた人。




私に関わる全てを変えてくれた。

私とキャロの関係を。

私とエリオの関係を。

私と貴方の関係を。

そして今はこの状況をも、貴方は変えてくれた。

その全てを良い方向へと変えてくれた。




──目を見開き、真っ直ぐにスカリエッティを見据える──




……これはきっと、違うだろう。

なのはの言う『      』とは違う。

違うに決まっている。

──けれど。


「私にとってユーノ・スクライアは……」


フェイト・T・ハラオウンにとってユーノ・スクライアを称する「称号」は一つしかない。

たった一つしか……思い浮かばなかった。












「ストライカー」












これが答え。


「私はユーノを『ストライカー』と呼ぶよ」


他に彼を称する言葉なんて見つからない。


「これは稀有なことを。彼が高町なのはの言っている『ストライカー』だとは同意しかねるね」

「確かに」


なのはの言っているストライカーとは違う。


「けれど、違ったとしてもそれでいい。違っているとしても構わない」


誰もが認めないと思う。

誰もが納得しないと思う。

でも、私だけは認める。

私だけは納得する。


「誰もが認めなくても、誰もが納得しなくても、それでも彼は私にとって……たった一人のストライカー」


唯一無二の存在。












「私だけのストライカーだ」












私だけがそう思っているだけでいい。

他の誰かに同意してもらおうとは思わない。

他の誰かに納得してもらえるなど思わない。

だって彼がいかなる状況をも打破しているのはきっと、私のことだけだから。






──フェイト・T・ハラオウンのことだけは、どんなことでも打破する──






そう、彼は私のいかなる状況も打破してくれた本当に特別な人。

戦闘だけじゃなくて、全てにおいて変えてくれた本当に大切な人。

だからこそ、ストライカーと呼びたい。

だからこそ、ストライカーと称したい。












何より彼はたった一人──私だけの『my striker』なんだと、誰よりも私が思っている。












故にオリジナル。

ただ一人、フェイトのためだけに存在するストライカー。


「誰にも文句は言わせない」


どんなに辛いときがあっても、どんなに追い詰められたとしても、彼がいれば大丈夫だから。

どんなに苦しいときがあっても、どんなに悲しいことがあっても、彼がいれば和らいでしまうから。

本当に全部、何もかもを『大丈夫』にしてくれる。



──共にいてくれる、ただ……それだけで。



心から彼を信頼している。

心から彼を信用している。

理論も公式も確固たるものが何一つなくても、彼が言ったことなら私は信頼できる。

惚れた弱みかもしれないけれど、しょうがない。






──それが私にとっての『ユーノ・スクライア』という存在なんだから。




























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