「ユーノ先生。お皿とか調理用器具はどうしたらいいですか?」

「えっと、それはフェイトに指示を仰ぎながらお願いします、ティアナさん」

「わかりました」

駆け足でティアナがキッチンに向かう。

「先生、こいつはどうします?」

「本棚に順に入れてもらっていいですか? ダンボールに番号が書いてあるので、それから順に入れていってください」

「ういっす!」

バタバタと様々な人が動き回る。

「前に引っ越したときは、ここまで大変じゃなかったんだけどな」

大騒動とでも言うべき事態に、しみじみユーノが呟く。

「そんなん当たり前じゃないっすか」

ヴァイスが本棚に本を詰め込みながら返答する。

「先生、今日から家族と一緒に暮らすんですから」



























「My family」外伝


『original strikers』








エピローグ

「 home 」






















「これで大体終わりっすか?」

パンパン、とヴァイスが両手をはたく。

「そうですね。後は細々したものですし」

周囲を見回すと、午前中に運ばれてきた衣類や私物がだいぶ片付いている。

「すごく助かりました。ありがとうございます、ヴァイスさん」

「こっちも世話になってますからね。当然っすよ」

と、ユーノとヴァイスが話しているところにフェイトがやって来た。

「夕飯の準備ができたよ」

「ん、分かった」

ユーノは頷くとヴァイスと同時にフェイトと一緒にリビングに向かう。

「他の部屋の様子はどう?」

「大体の場所は終わったよ。ユーノとヴァイスが最後かな」

「あ〜、やっぱりそうか」

「先生の部屋、無駄に荷物が多いっすから」

「まあ、学者さんだから仕方ないよね」

フェイトが擁護する。

「これからもきっと増えていくから、そう言ってくれると非常に助かるよ」

「理解ある恋人でよかった?」

「それはもちろん」

「……こんなとこでノロケはやめてくれませんかね」

三人はリビングへとたどり着く。
リビングにはすでにキャロ、エリオ、ティアナ、なのは、ヴィヴィオ、はやて。
そしてアルフとザフィーラが子犬モードで存在していた。
机の上には所狭しと出前の食べ物が並んでいる。

「おお! やっと来たな、ユーノ君」

はやてはユーノを見るや、紙コップに飲み物を注ぎ込んでユーノとフェイト、ヴァイスに渡し、次いでユーノを全員の前に押し出す。

「あの、はやて?」

「引越しが無事終わったんやから、ここで一つ大黒柱から挨拶をしてもらわんとな」

「い、いいよ別に……」

空いている手を振ってユーノは断ってみるものの、ユーノ以外の全ての人から拍手が行われる。

「ほら、みんな聞きたいみたいや。ちょっとでいいんよ」

親指と人差し指の間にほんの隙間を作るはやて。

「……断れないよね、この状況だと」

「そうやね」

「……まったく、わかったよ」

ユーノは諦めて全員を見渡す。
そして少しだけ考えると、口を開いた。

「皆さん、今日はありがとうございました。僕達の引越しを手伝っていただき、本当に感謝しています。用事で帰ってしまったグリフィス君やアルトさん、他のヴォルケンリッターの方々にも深い感謝をお伝えください」

頭を下げて感謝の意を示す。

「今日から僕達は一緒に暮らします。フェイトとキャロとエリオ、アルフと一緒に」

一緒に暮らしていく人々にそれぞれ視線を向ける。

「一年前には考えられないことでした。フェイトと恋人になったことも、キャロが娘になったことも、エリオが息子になったことも。その全てが予想外の連続です」

きっと誰もがこんな状況になるなんて想像していなかっただろう。

「だから、僕はそんな考え付かないことばかりが起こったこの一年を僕は絶対に忘れません」

きっと、死ぬまで忘れないことだろう。

「もちろん、ヴァイスさんやはやてからからかわれたことも忘れませんからね。というか、仕返しします」

言うと、はやてとヴァイスがバツの悪い表情をした。
その二人以外の全員が苦笑する。

「さて、堅苦しいあいさつは面倒ですからここまでにしましょうか。皆さん、紙コップに飲み物は入ってますね?」

ユーノの質問に全員が頷く。

「それでは、肉体労働お疲れ様でした。そして僕達の引越しが無事終わったことに──」

ユーノが紙コップを高らかと掲げる。

「乾杯!!」




『乾杯!!』




































皆が食事を始めて少しすると、はやてがユーノの下へやって来た。

「フェイトちゃんと同棲する気分はどうや?」

からかい半分ではやてが尋ねる。

「まだ実感が無いよ。残念ながらね」

「それは残念」

「はやてこそ相手を見つけたら? そのまま歳を取ったら引き取り手がいなくなるよ?」

「私みたいなええ女をほっとく男はそうそうおらんよ」

ちょっとしたポーズをはやてが取る。

「ここにいる男は全員はやてをほっとけるけど」

ユーノが言うとはやては「うぐっ!」と唸る。

「そ、そういう返しをするようになったんやな、ユーノ君も」

「どこぞの二人のせいで鍛えられましたからね」

互いにくすくすと笑う。
そしてひとしきり笑った後、

「……なあ、ユーノ君」

不意にはやてが真面目な表情を作った。
そしてぽつりと喋り始める。

「私もな、家族ができたときの気持ちは今でも覚えてる。今でも忘れずにちゃんと“ここ”にある」

そう言ってはやては右手を軽く胸に当てる。

「他のみんなが持ってて、私が持ってなかったもの。それを得られたときの喜びは今でも忘れられないんよ」

ずっとずっと、忘れない。
これだけは絶対に忘れることはない。

「ユーノ君は?」

「もちろん僕もだよ」

ユーノも同意して胸に手を置く。

「僕もはやてと同じように“ここ”にある」

大切な“モノ”がしっかりと存在している。

「絶対に離したくないよね」

この想い、この絆を手放したくない。

「うん」

はやては一つ頷く。

「なんか、そう思うと私とユーノ君って似たもの同士なんやな」

「そうかもね。僕と君は似たもの同士かも」

互いに血の繋がっている家族が存在せずにいた二人。

「だからユーノ君のことをからかいたくなるんかな?」

「それは君の性格だよ」



















次になのはとヴィヴィオがユーノに話しかけてきた。

「お疲れ様、ユーノ君」

「なのは、今日は手伝ってくれてありがとう」

「手伝うのは当然だよ。ね、ヴィヴィオ」

ヴィヴィオは頷くと、ユーノに今日やったことを話す。

「ヴィヴィオね、今日はキャロとフェイトさんのお手伝いをしたんだ」

「そっか。偉いね」

「うん。たくさんがんばったんだよ」

ユーノに褒められて嬉しそうに笑うヴィヴィオ。

「なのはもそろそろ引越しみたいだけど、ヴィヴィオは学校に行かせるんだよね?」

「うん。4月からそのつもり」

「大変じゃないの? 教導との両立は」

ユーノが尋ねると、なのはは少し首を傾げた。

「まだやってないからなんとも言えないんだけどね。一応アイナさんにもハウスキーパーをやってもらうし」

「そうなんだ」

「でも、ユーノ君に一つお願いしてもいいかな?」

「お願い?」

「うん。ヴィヴィオとの待ち合わせ場所に無限書庫を使わせてほしいんだよ」

なのはがユーノにお願いをする。
いつものように快く了承してあげたいユーノも、この提案には少しばかり顔をしかめる。

「無限書庫を待ち合わせ場所って言われても、ちょっと厳しいと思う。出入りするには何も問題ないんだけど、さすがに待ち合わせ場所に使うには認められないよ」

「でも、キャロの特訓には付き合ってたよね?」

「あの子が来てたのは基本的に残業以外の無限書庫の仕事が終わった後だし、使うのは司書長室のみ。しかも戦闘訓練だから他の人達が納得する部分もあったよ。けれど、君達の待ち合わせっておそらく仕事の真っ最中じゃない?」

「……たぶん」

「僕としては別にいいんだけど、さすがに託児所じゃないからどこからか苦情が出ると思うんだよね」

お願いを聞いてあげたいが、さすがに待ち合わせは厳しいんじゃないだろうか。

「ど、どうにかならない?」

なのはが懇願する。

「どうにかって言ってもなぁ……」

ユーノは頬を掻いて考える。

──無限書庫で普通にいられるのは司書だけだしな……。

あまり関係のない人が待ち合わせ場所に使うというのは難しい。

──どうせなら、どっちかが関係者になればいいんだけど。

そこまで考えたところでユーノはヴィヴィオに目をやる。

──あれ? 関係者?

そこでふと、考え付く。

「ヴィヴィオは本とか好き?」

「だいすきだよ」

「無限書庫で本とか探してみたいって思う?」

「うん。ユーノくんの見てるとたのしそうだもん」

「じゃあ、司書の人達いいな、とか思う?」

「うんっ!」

嬉々として答えるヴィヴィオ。

──ん〜、確かに本を読んでるときのヴィヴィオは楽しそうだしな。

何一つ嘘は言ってないだろう。

「なら、そうだな……」

ユーノはヴィヴィオの返答から、

「なのは。ヴィヴィオを司書にする、っていうのはどう?」

一つ提案をする。

「ヴィヴィオが……司書?」

目をぱちくりさせながらユーノの提案を聞くなのは。

「司書に年齢制限はないからね。最初は僕と司書になるための勉強。これならおそらく文句は出ないだろうし、司書になったらなったで無限書庫を自由に出入りしていいわけだから、何も問題は無くなるよ」

「……そっか。確かにそうだよね」

ヴィヴィオが無限書庫の関係者になってしまえば、なのはが迎えに来ても何も問題は無い。
仮に仕事云々の話になったとしても、そういうところは伯父のユーノが考慮してくれるだろう。

「ユーノ君、頭良い!」

「まあ、ヴィヴィオが本に興味を持ってくれてるから出来た提案だよ」

でなければ、どうしようもないところだった。

「それじゃあ、司書長さん。4月から娘のことをお願いしますね」

「分かりました。僕も姪っ子を立派な司書にしたいと思います」

そう言って、お互いに笑った。






















「ヴァイスさんもティアナさんもお疲れ様でした」

「いえ、ユーノ先生にはお世話になりましたし当然のことです」

「先生の門出を手伝わないわけにはいかないでしょうよ」

そこでヴァイスはニヤリと笑う。

「それに、ジェイル・スカリエッティを捕まえた英雄の家の引越しを手伝えるなんて自慢になりますからね」

「……まだそのネタを引っ張りますか、ヴァイスさん」

「あんだけ疲れきった先生の表情を見たのは初めてなんで、さすがに印象には残るってモンですよ」

「そんなこと言ったって、実際疲れたんですから仕方ないですよ」

当時の状況を思い出して溜息を吐くユーノ。

「大変でしたよね。無限書庫の司書長であるユーノ先生がスカリエッティを捕まえたんですから。民間協力者ですから問題ないといえば問題はなかったんですが……」

その後が大変だった。

「捕まえたときのことを聞きたい人がざらにいて、さらには後衛がこぞって先生から教えを受けようとしたり、最終的には先生を民間協力者じゃなくて管理局に正式に入れようとかあったもんな」

「学者の仕事もあるからって言ってユーノ先生が突っぱねたんですよね」

「面倒でしたよ、本当に」

「いいじゃないっすか。最近は落ち着いてきたんですから」

「そうじゃないと心労で倒れますって」

3ヶ月ほど経つとようやく落ち着き始め、最近では特に騒がれることはなくなった。
と、そこでヴァイスがにやりと笑う。

「ああ、でもフェイトさんがいるのに告ってきた強者もいたから余計に心労が重なったんすよね」

「……否定はしません」

さらにげんなりするユーノ。

「先生が事件の最後に局員の前でフェイトさんを抱きしめたのはかなり有名な話なのに、それを知らない女性局員が先生のとこ行って、フェイトさんもいたのに目の前で──」

「ス、ストップストップ! それ以上は言わないでくださいって!」

途中でヴァイスの言動を区切る。

「フェイト、本当に嫉妬深いんですからその話題はタブーですってば」

同じ部屋にいるのだから、もし聞かれでもしたら面倒になる。

「あの時、ユーノ先生がはっきりと断ったのにそれでも拗ねましたからね」

「スカリエッティを相手にしたときよりも大変でしたよ」

最愛の女性のご機嫌取りは時にすごく簡単なこともあれば、時に世界最悪の犯罪者を捕まえることよりも難しいときがある。

「でも、次の日にはフェイトさんが超ご機嫌になってたんすから、先生もやりますよね」

ヴァイスとティアナがちらりとフェイトの右手を見てみる。
彼女の小指には、銀色の輪が嵌っていた。

「ティアナさん、その節はありがとうございました」

「いえいえ、私なんかが役に立ててよかったですよ」

「あん? お前、先生に何かしたのか?」

ヴァイスがティアナに訊く。

「ユーノ先生から何か良い方法はないかって相談を受けたんで、何かプレゼントを贈ったらどうですか? と提案したんですよ」

「それで、とりあえずネックレスとか時計は持ってるんで、他に渡してないのを考えるとピアスとか指輪だったんですけど、どうせならフェイトに余計な虫がつかないよう指輪にしたんです」

「……なんだかんだで先生もフェイトさんと同類っすよね」

あまり表に出さないだけで、ユーノもフェイトと同じだ。

「恋人を過小評価するつもりはこれっぽっちもありませんから」

「まあ、その気持ちは分かりますけど」

ヴァイスが頷く。
ユーノはそんなヴァイスをじっと見ると、普段の彼には見られない意地悪い表情で笑った。

「な、なんすか?」

「ヴァイスさん、あの時はヘタレでしたね」

唐突に話題を変えるユーノ。
そのことにヴァイスが慌てる。

「い、今はそんなんどうでもいいじゃないっすか!」

「いえいえ、どうでもよくないですよ。ヴァイスさんが懐かしいことを思い出しているようでしたから、僕も同じように懐かしい出来事を思い出したんです」

「マジで勘弁してくださいよ、先生」

珍しくヴァイスが懇願する。

「しょうがないですね。今日はこのくらいにしてあげます」

満足げにユーノが頷いた。
どうやら最終的の立場は、いつもと逆になったみたいです。


















エリオとキャロがユーノの側に寄ってきた。

「二人は部屋の片付けは全部終わったの?」

「はい。そんなに荷物はなかったから、早めに片付け終わっちゃいました」

「僕も同じです」

「その部屋で今日から暮らすわけだから、これからもちゃんと整理整頓するんだよ?」

「大丈夫ですよ。ね、エリオ君?」

「うん。六課の宿舎のときもそんなに汚さなかったもんね」

だから問題ないとは思う。
が、ユーノの考えは違った。

「だとしても、家で汚さないとは限らないよ」

「どうしてですか?」

「六課の宿舎は基本的に遊び道具とかなかったしね。二人の部屋はこれから服だったり遊び道具だったり買うから、どんどん部屋の中に荷物が増えてきてごちゃごちゃになる。その中で残すものと捨てるものを選ぶのは大変だよ」

「あっ、確かにそうかもしれません」

今までは少量の荷物しか持っていないからこそ、綺麗だったのかもしれない。
荷物が増えたらどうなるかは、二人には分からない。

「今度、ショッピング行くときに早速ゲームとか買おうと思ってるし」

「ホントですか!?」

エリオの瞳が輝いた。

「うん。だって友達とか来たときにゲームとかなかったら困るでしょ?」

「よく分からないですけど、たぶん!」

「それにエリオと一緒にゲームとかするのも面白そうだよね」

コミュニケーションを取るには十分な代物だ。

「まあ、とりあえずフェイトに相談だけど」

「頑張ってくださいよ。僕も父さんと一緒にゲームしてみたいですから」

「うん、父さんに任せなさい」

ドン、とユーノは自分の胸を叩く。

「キャロもショッピングに行ったとき、フェイトと一緒にどういうものが買いたいか考えとかないとね。女の子のことはやっぱりお母さんに任せるのが一番だし」

「分かりました」

キャロがこくりと頷く。

「じゃあ、二人とも皆と話しておいで。これからは時々しか会えないからね」


「「はい!」」


















      ◇      ◇

















引越しも無事に終わり、今はもう日付が変わるか変わらないかの時間。
ユーノがベランダで夜空を見上げていると、背後でガラス戸を開ける音が聞こえた。
手伝いに来てくれた人はすでに帰っており、キャロとエリオはもう夢の中だろう。

──だとすれば、決まってるよね。

残りは、あと一人。
後ろからやって来る足音はユーノの隣で止んだ。

「どうしたの?」

「寝ようと思ったら、ユーノの姿が見えたから」

「わざわざ来なくてもよかったのに。フェイトだって疲れてるだろ?」

引越しや夕食の後片付けで疲れているはず。

「私のためだよ。私がユーノと一緒にいたかっただけ」

そう言って、フェイトは同じように空を見上げる。

「………………」

「………………」

雲ひとつ無い星空が二人の瞳に映る。

「……なんか」

すると、ユーノが不意に言葉を紡いだ。

「なんか不思議な感じだよ。今日から君達と一緒に暮らすなんてさ」

フェイトは視線を空から隣へと向ける。

「やっぱり一年前じゃ考えられなかった?」

「もちろん。キャロとは知り合ってすらいなかったわけだしね」

他の二人とも、一緒に暮らすほど親しいというわけではなかった。

「私も同じかな。こんな日が来るなんて思ってもみなかった。エリオとキャロに『お母さん』って呼ばれて一緒に暮らす日が来るなんてね」

「嬉しい?」

「うん。お母さんになろうって決心して、本当に良かったと思ってる」

この決心のおかげで、今の幸せを手に入れることができたのだから。

「ありがとう、ユーノ」

突然、フェイトが感謝の言葉を口にする。

「僕は何にもしてないよ?」

「いいの。ユーノのおかげなんだから」

きっと貴方がいなければ、この想いは存在していなかった。
貴方が父親として頑張る姿を見ていなければ、おそらく生まれていなかった。


──だから“ありがとう”なんだよ、ユーノ。




































「くしゅっ」

しばらく二人で話していると、可愛らしいくしゃみがユーノの耳に届いた。

「そろそろ寝ようか。春先とは言っても、まだ少し冷えるしね」

「うん」

ユーノとフェイトは並んでベランダから家の中に戻る。
隣り合う自室の前までゆっくりと歩く。

「そういえば、今日から毎日言えるんだよね」

「何を?」

「さっきもあの子達に言ったんだけどさ、君達に『おやすみ』って言葉を毎日言える」

部屋の前まで来ると、ユーノは噛み締めるように言葉を紡いだ。

「突然どうしたの?」

嬉しそうで泣きそうなユーノの表情。
どうしてそんな表情をしているのかとフェイトは考えようとして、

「…………あっ」

不意に思い出した。
初めてキャロと一緒にユーノの家に泊まったときのことを。
彼の言葉は、ぜんぜん突然なんかじゃないことを。




『憧れてたからだよ』




『キャロの我侭はね……僕の希望でもあるんだよ』




その時に彼の言った言葉が、今もフェイトの耳に残っている。

──ユーノ、言ってたもんね。

あいさつできることに『憧れていた』と。
この状況は自分にも家族がいると思える『希望』なのだと。

──今はユーノの願いが叶ってるんだよね。

本当に些細なものかもしれないけれど、彼が憧れて希い望んだものが叶った。
ささやかだけれども、実直に欲していたものがこの場にある。

──伝えないと。

今日からは叶い続けることを。
ずっとずっと、叶っていくんだということを。

「ねえ、ユーノ」

フェイトはユーノの手を取って、軽く握り締める。
そして、この気持ちが貴方に伝わってくれるよう言葉を口にする。


「もう『憧れ』じゃないよ。これからはずっと私がユーノに『おやすみ』って言うから」


だからね、そんな表情をしないで。


「もう『希望』じゃないよ。これからはずっと私がユーノに『おはよう』って言うから」


だからね、そんな想いをしないで。


「貴方は私の家族で、私は貴方の家族。たとえエリオが婿養子にいったとしても、キャロがお嫁にいったとしても、あの子達が私達の家族であることには変わりないし、何よりもね──」


貴方と私の運命が終わるまで。

絶対に変わらないことがあるんだ。






「ユーノの傍には、ずっとずっと私がいるよ」






だから一人じゃない。
もう貴方は孤独じゃないんだと。
今一度、彼が確認できるように伝える。

「……フェイト」

ユーノはフェイトから紡がれた言葉、彼女から伝わる温もりに笑みを零すと、

「大丈夫。ちゃんと分かってるよ」

「本当に?」

「うん。本当に分かってる」

しっかりと理解しているつもりだ。

「ありがとう。心配してくれて」

ユーノは足を一歩前に踏み出すと、フェイトの頬に軽く口付ける。
そしてゆっくりと離れながら手をほどき、




「おやすみ、フェイト」




優しく微笑んだ。
フェイトも彼と同じように笑みを浮かべて、これからずっと彼に言い続ける言葉を紡いだ。




「おやすみ、ユーノ」





























フェイトはパジャマに着替えるとベッドに腰掛けて、右手の小指に嵌められている指輪を寝室台の上に置く。
置いた指輪の隣にある二つの写真立ての存在が目に入ると、フェイトは優しく表情を崩した。
そして両方の写真に軽く触れると、フェイトは明日の朝食のことを考えながら明かりを消してベッドに入った。


































そのフェイトの触れた二つの写真立て。
片方はユーノ、フェイト、キャロ、エリオ、アルフが写っている。
もう片方には彼女と彼女の恋人が寄り添っている写真。
何の変哲も無い写真ではあるが、その二つの写真を取り出して裏を見てみると、ある文字が綴ってあった。
家族が写っている写真には『 my family 』と書かれており、そしてもう片方には二つの言葉が上下に並んでいた。
その両方が、彼女にとっては彼を表す大切な言葉。
べつに誰かに見せようと思って書いたわけではない。
でも、どうしても記しておきたかった彼への想い。







『 my lover 』




“ 私の恋人 ”








そしてもう一つ。








『 only my striker 』




” 私だけのストライカー ”




































My family ─ original strikers ─











── End. ──































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