My family25.5話
「女達の邂逅」
ユーノ達が使ったこともある居酒屋のようなお店で今回、女性5人が集まった。
「みんな、今日は来てくれてありがとな」
今回の集まりの発起人、はやてが女性達に感謝する。
「スカリエッティ事件解決及び、ギンガの全快を祝おうと思ってな」
「あ、ありがとうございます」
蒼紫の髪の持ち主──ギンガがぺこり、と頭を下げた。
「ギンガの快気祝いはいいと思うけど、事件解決の打ち上げはこのあいだやったよ?」
「あれはお偉いさん方もいたやろ? 堅苦しくないのもやりたいんよ」
フェイトの問いにはやてが答える。
すると、なのはが的を得た発言をした。
「つまりお気楽にやりたいんだよね」
「そうやな。お喋りするだけやから、お集まり会みたいな感じや」
「久しぶりだね、こうことするの」
「本当にな」
この場にいる全員が笑顔になる。
やはり働いているとしても女の子なのだから、噂が好きなことに変わりはないようだ。
「今日はキャロも来ると思ったんやけど、一体どうしたん?」
「私がこの集まりに行くって言ったらね、ユーノが『じゃあ、僕達もどこかに行こうか』って言って、今日はエリオとキャロを連れて遊園地に行ったんだよ」
先日ユーノ達に伝えたときに、ユーノがそう二人に提案していた。
「今日の朝もね、私が見送りに行ったら三人に笑顔で『フェイトも楽しんできてね』って言われたんだ」
そう言って三人は意気揚々と遊園地に向かっていった。
別に彼のことだから特に何かを思って言った言葉ではないとは分かってはいる……のだけれど。
「もしかして、私が一緒だと嫌だとか?」
ほんの……ほんのちょっぴりそんな気持ちが芽生えなくもなかった。
「いや、ユーノ君達の限ってそんなんありえへんから」
けれど、そんなものは友人達に一蹴される。
「ユーノ先生ですし、純粋にフェイトさんに楽しんでほしいと思って言ったんですよ、きっと」
「やっぱりそうかな?」
「そうだよ、フェイトちゃん。ユーノ君はフェイトちゃんに無駄な心配なんてしないで楽しんでほしくて、子供達と一緒に遊園地に行ったんだよ。それに、ここ最近はフェイトちゃん頑張ってるからね。たまにはお父さんに子供達を任せてもいいんじゃないの?」
ほんのちょっとだけヘコんだフェイトを三人が励ます。
「……うん、そうだね。ユーノにも『頼ってよ』って言われてるし、今日は甘えようかな」
励まされて無事、フェイトが復活した。
と、同時に少しだけ惚気る。
「さすがフェイトちゃん。復活した瞬間に惚気るとはさすがや」
というより、これだけ女性がいるのに彼女だけしか惚気られない、というところに一つ疑問がある。
「でも、本当に不思議やね。私達の中で付き合ってるのはフェイトちゃんしかおらんなんて」
はやてはここにいる女性、フェイト以外をぐるりと見回す。
「花も恥らう乙女達が──しかもこれだけ綺麗どころが揃っているのに、付き合ってる女性が一人しかいないとは、由々しき事態とは思わんかね?」
どうなんだい、諸君? といった感じではやてが訊く。
「話の流れで大体は把握したんですけど、フェイトさんって恋人いたんですね」
ここで話に加われなかったギンガが口を挟む。
「スカリエッティ事件のとき、スカリエッティと渡り合った人がいたでしょ?」
「えっと……スクライア先生でしたよね?」
「そうだよ。彼が無限書庫司書長兼考古学士兼フェイトちゃんの恋人」
なのはがそう言うと、ギンガが一つ頷いた。
「さきほどから『ユーノ』という名前が挙がっていたので、もしかしてとは思いましたが、あの方がフェイトさんの恋人なんですか」
「知ってるの?」
「ええ。父がスクライア先生のことを高く評価してまして、その縁でお会いしたことがあるんです。とても聡明な方で驚きました」
しかも歳の近い男性と話した経験があまりないため、よりそう思ったのかもしれない。
「スカリエッティとの戦闘も凄かったですし……あれで総合Aランクというのは、正直信じられません」
「なんや? ギンガのユーノ君に対する評価は高いみたいやな」
はやてが茶化す。
「そうですね。フェイトさんという恋人がいなければ、もしかしたら名乗り出たかもしれませんね」
ギンガも乗っかって、少し冗談のように言う。
だが、
「……へぇ、いなかったら名乗り出たんだ」
ユーノ関係にだけは冗談の通じない女性が一人いた。
慌ててギンガが弁解をする。
「フェ、フェイトさんがいなければですからね! 尊敬してるだけですから、そんな視線に殺気を込めないでもらえると……」
ギンガの弁解に、フェイトの凍てつくような視線がなくなった。
同時にフェイトの顔には『やってしまった』と少し後悔している表情になる。
「ごめんね、ギンガ。どうもユーノのことになると、ストッパーが緩むというか」
どうも感情の加減が上手くいかない。
「まあ、フェイトちゃんはユーノ君にぞっこんやからね」
だから、ようするに……仕方がないと思うしかない。
ケースその1
〜フェイトの場合〜
「さて、まずはフェイト大先生からお話を聞こうか?」
はやての宣言に、フェイト以外の女性全員がパチパチと拍手をした。
「話って何を喋るの?」
「もちろんフェイトちゃんとユーノ君の馴れ初めだよ」
決まってる、とばかりになのはが言う。
「というわけで、フェイトちゃん。ユーノ君とはどういう始まり方をしたんや?」
はやて自身、散々からかってはいるが詳細を知っているわけではないので、非常に気になる話題だ。
「えっと、楽しい話かどうかはわからないんだけど……」
フェイトの言葉に、4人が耳を傾ける。
「始まりはキャロのことで話したこと。これが気持ちに気づく……というより、全部の始まりの切っ掛けかな」
切っ掛けは本当に些細なことだった。
「……はやては分かると思うけど、一緒にお買い物に行ったりとか、お祭りに行ったりしたんだ。それで、ユーノのお見合いの話で自分の気持ちに気付いたんだ。まあ、気付いたのはいいんだけど、それが原因で自分のこととかユーノのことで色々と悩んでたときがあったんだよ。それがあることを切っ掛けに溢れちゃって、感情を全部ユーノにぶつけちゃったんだ」
「それで、どうなったの?」
「全部──良いことも悪いことも伝えたらね、ユーノが言ってくれたの」
女性達の好奇心がより一層高まる。
フェイトは照れるように笑って、
「私が普通じゃなくても関係ないって。君のことが好きだよって」
当時、あの瞬間に言われたことを4人に教えた。
すると4人は大騒ぎ。
「今の、もしかして告白なのかな!?」
「告白やろ! やるなユーノ君!」
「男性からの告白って憧れますよね」
「あっ! その気持ち私も分かります」
ワイワイガヤガヤと騒ぐ4人。
「本当はね、もっと長い告白なんだけど……」
瞬間、ギラリと4人の目が輝いた。
「それも言ってみよか、フェイトちゃん」
そしてはやてが全員の気持ちを代弁する。
「これも言うの?」
「私は聞きたいな」
「私も聞きたいです」
「もちろん、私もや」
「皆さんと一緒で、私もどんな告白だったのか気になります」
全員が興味津々だ。
「それじゃあ、一部抜粋という形で」
だからフェイトも全部とは言わないまでも、抜き出して教えてあげる。
「──コホン。『フェイトがクローンだとしても、僕の気持ちは揺るがない。君が自分のことを“普通”じゃないと言おうと関係ない。君と全く同じ遺伝子の人が……アリシアがもし、この世にいたとしても……僕は間違いなくフェイトを好きになる。たとえこの世にいる誰もが“普通”に生まれている人達を……なのはや、アリシアしか好きにならないとしても、僕だけは──僕だけは他の誰でもない、目の前の女性に恋をするよ』って、私を抱きしめながら言ってくれたんだ」
当時を思い出したのか、少しだけフェイトの表情が赤くなる。
「……ユーノ君、かっこええなぁ」
「スクライア先生、すごいですね」
「随分と情熱的な告白だったんだね」
「ユーノ先生がそんなことを言うなんて、良い意味で意外でした」
「さっき言ったとおり、これでもちょっと削ったんだよ。やっぱり、全部知ってるのは私だけがいいから」
独占欲というものだろうか、彼の告白の全部を知っているのは生涯自分だけがいい。
「それでフェイトさんはどう答えたんですか!?」
「やっぱり『好き』とか言ったんですか?」
ティアナとギンガにさらに突っ込まれる。
フェイトはそれにも律儀に答えた。
「私はユーノの背中に手を回して『ずっと私の隣にいてよ』って返事をしたよ」
皆が暖かくなるような笑顔で、フェイトが答える。
「なんかこう、ドラマみたいでぐっとクるわ」
「きっと、お二人の間には私たちには語れない壮大な物語があったんでしょうね」
「そのやり取りをしても嫌味に全然思えないのがすごいですよね」
むしろ憧れます、とティアナが呟く。
「まあ、結論を言うと一つしかないよね」
フェイトの話を聞けば、誰もが行き着く感想は一つ。
「フェイトちゃんとユーノ君の恋愛は、まさしく“純愛”だったんだね」
ケースその2
〜ギンガの場合?〜
「ギンガは誰かいないんか?」
「私は誰もいませんよ。先ほども言ったとおり……その、最近まともに話したことがある男性が……えっと、スクライア先生ぐらいしか……いないというか…………あの…………」
さきほどと同じく、じとっ、とフェイトがギンガを見る……というより、睨みつける。
「こらこら、フェイトちゃん。ギンガにプレッシャーかけるのやめい」
ケースその3
〜ティアナの場合〜
「次はティアナの番やな」
「私は……その……」
少し言いよどむティアナ。
「ヴァイスとはどうなの?」
そこにフェイトの先制パンチが入った。
「へぇ、ティアナにもそういう人がいるんだ」
「……親友のうちの一人のフェイトちゃんにいて、部下の一人のティアナにもいて、どうして私にはいないんだろう?」
はやて、フェイト、ギンガが騒ぎ出す中で、なのはが一人ごちる。
その理論でいったらはやても同じなのだとは思うが……。
「べ、別に私とヴァイス陸曹は何でもありませんよ」
「そんなこと言ってええのか?」
「……どういうことですか?」
「ヴァイス君をもしかしたらシグナムに取られるかもしれんよ?」
「──えっ!?」
はやてはシグナムの名前を出して揺さぶりをかける。
「ヴァイス君はシグナムのことを『姐さん』と呼んでるし、良い関係や。昔、私もヴァイス君がシグナムのことを狙ってる勇者と勘違いしたことがあったし……もしかしたら、お互い気を置けない関係かも……」
まあ、シグナムによれば『師弟関係』が一番しっくりくるらしいが、ここで言うのは野暮というものだ。
「偶には素直になったほうが得やと思うけど? もちろん私らやなくて、ヴァイス君にな」
「…………うぅ……」
はやての口撃を受けて、ティアナが悩み始める。
「……さすがはやてちゃん。追い詰め方が酷いね」
「ちょっとティアナが可哀相に思えてきたんですけど……」
「これがはやての趣味みたいなものだから仕方ないよ」
ケースその4
〜なのはの場合〜
「なのははどうなの?」
「……私にいると思う?」
フェイトの質問に、なのははほぼ自虐的に言い返す。
「でも、教導とかで歳の近い人もいたんやないの?」
「ん〜、確かにいたけど気になる人は別にいなかったな」
「というか、なのはさんの好みの男性ってどういう人なんですか?」
ティアナがなのはの返答を受けて、この問題で一番根っこになる部分を問う。
「えっと……まずは優しいこと。これは絶対だね。別に格好良くなくてもいいけど、笑顔が似合う人がいいな。それに私の夢を理解してくれるのも、条件のうちの一つ。あとはヴィヴィオのことを許容してくれること。これは譲れないよ」
なのはが言い終わった瞬間、ギンガ以外の3人の頭に浮かんだのは一人の青年の姿。
「……よくユーノ君を取られなかったな、フェイトちゃん」
「……私も本当にそう思うよ」
「……よかったですね、フェイトさん」
「3人とも、どうしたの?」
顔を寄せ合って話す三人になのはが訊く。
「いや、なのはが言ってる条件ってユーノ全部当てはまるから……」
「あっ! 確かにそうかも」
フェイトの報告になのはが納得の声を上げる。
「けど、私とユーノ君は兄妹みたいな関係だしね。彼氏とか恋人とかそういう目では見れないよ」
彼を恋愛対象とは見ていない。
「でも、ユーノ君って色々と能力高いよね」
今までは特に意識をしてはいなかったが、よく考えると彼のスペックは群を抜いている気がする。
「確かにそうですよね。ユーノ先生、私が尋ねれば何でも答えてくれるますから」
専門分野は何なのかと問いたくなるときが時々あるほどに、知識が豊富だ。
「顔もそんなに悪くない。というより、女顔というマイナス分を差し引いても、カッコいい部類には入るやろな。優しさなんて文句ないやろ」
「戦闘でもスカリエッティと対等に張り合ってましたし」
スカリエッティとユーノの戦闘データで見た瞬間は、本当に驚いたものだ。
「綺麗でしたよね、あの戦い方。“舞う”って表現が合ってるような気がする動きでした。それにスカリエッティを捉える過程、ああいうのは初めて見ました」
最後はフェイトだったが、スカリエッティと捕まえる過程において、一対一だ。
「宝石ってああいうことにも使えるんだって、初めて知ったよ」
フェイトが胸元にあるネックレスを取り出す。
これがスカリエッティを捕まえる過程において、大活躍したのは記憶に新しい。
「じゃあ、今まで出たものを纏めると、ユーノ君ってこういう人なのかな?」
なのははコホン、と一つ咳払いをするとユーノという人物の評価をした。
「優しいし、格好いいし、頭良いし、強い。しかも無限書庫司書長で将来有望な考古学士でもあるのがユーノ君なんだよね」
「……えらいハイスペックやな」
「フェイトさん、とんでもない人と付き合ってるんですね」
「なんか、話だけを聞いてると完璧超人みたいですね」
次々にユーノのことを褒める。
すると、なぜかフェイトが嬉しそうに笑った。
「どうしたの、フェイトちゃん?」
「なんかユーノを褒められると私も嬉しいというか……」
とても喜ばしい気分になる。
「で、でも取っちゃ駄目だよ! 確かにユーノは誰よりも格好いいし、とっても頭良いし、すごく強いし、世界で一番優しいけど、でも──」
ペラペラと本人補正によるユーノ像を話し始めるフェイト。
……ようはノロケ。
「……いや、毎回毎回そんな盛大に惚気られたら、誰もフェイトちゃんから奪い取ろうとは思わんよな、普通は」
「ヴァイス陸曹から聞いたんですけど、ユーノ先生もフェイトさんにベタ惚れらしいですよ」
「なのに、どこに他人が入る余地があるんだろうね?」
「普通に考えたらどこにもないと思いますよ」
さっきのなのはの時と同じように、今度はフェイト以外の4人が顔を寄せて会話をする。
「あの……4人ともどうしたの?」
そんな4人を見て、不思議そうに訊いたフェイトだったが、
「なんでもあらへんよ」
「なんでもありません」
「なんでもないよ」
「なんでもないです」
一蹴された。
ケースその5
〜はやての場合〜
「それじゃ、ラストははやてに訊こうかな?」
「私は何にもあらへんよ?」
胸を張ってはやては答える。
しかし、
「そんなことないですよ。ヴァイス陸曹からの情報によると、グリフィスさんになにやらちょっかいを出したと聞いていますよ」
「私もそれはユーノから聞いたことある」
男性のネットワークを持つ2人が、はやて関連の情報を言い放った。
「あと、ユーノの情報によるとヴェロッサともちょっと気になる関係らしいよ」
「私は父さんと一緒にはやてさんと話してるだけなんで、何とも言えない……って、まさかはやてさんは親父好きとかじゃありませんよね?」
ギンガが少し疑うような目ではやてを見る。
「…………私だけ何も情報ない。もう、若くないのかな?」
その横では、なのはが一人落ち込んでいた。
「ちょ、ちょっとタンマ!」
はやてが手で3人を制す。
「私ってそんな情報があるんか?」
「みたいですね」
噂にはなっていないだけで、確かにそういった情報は存在している。
「まずはグリフィスに何をしたの?」
「……え、えっとな。忘年会に向けて夫婦漫才の訓練をしてるんやけど、こないだ一応ネタが最後まで通せてな。ご褒美として……その……」
はやてが少し言いよどむ。
「ご褒美として?」
「ちょっと抱きついただけなんやけど……」
ほんの軽い気持ちでグリフィスに抱きついただけなのだが……。
「年頃の男の子が年上の女性に抱きつかれたら、さすがに気にするよね」
「べ、別に他意はないんよ!」
別に手篭めにするとかそういった意図はない。
ただ純粋に……いや、ちょっとはからかうような感じで抱きついたのは事実ではあるけれど。
「まあ、グリフィスという方についてはそこまでにしておきませんか」
はやての気配からして、別に恋愛どうこうというわけではなさそうだ。
「次はヴェロッサとの関係だね」
「その“ヴェロッサ”という人はどういう方なんですか?」
ギンガがフェイト達に問う。
「はやてがお世話になった年上の男性だよ」
「ちょっと軟派っぽい人ですけど、良い男性だと思います」
「で、その人とはどうなの?」
はやてが被疑者のため、いつの間にかフェイトが詰問役になっている。
「ヴェロッサは別に“お兄ちゃん”みたいな人や。特に恋愛に発展することは──」
「でも、頭を撫でられて喜んでたみたいだよ」
フェイト、爆弾投下。
「──なっ!? ど、どこからそんな情報を!?」
はやてが狼狽する。
が、フェイト、ティアナ、ギンガははやてそっちのけで話を勝手に展開する。
「得てして、そういった感情が昇華されていって恋愛に発展するというのも、世にある恋愛の一つのパターンではありますよね」
「それで、そういうのが高じて年上好きになったりするんですよね」
「……ギンガ。お父さん、ちょっと危ないんじゃ……」
「私もさっきは冗談で言ったんですが、少し心配になってきました」
会話があらぬ方向へと飛んでいく。
「ち、ちゃうねん。私は別に年上好きやあらへんよっ!?」
はやてが大慌てで否定する。
こんなに切羽詰ったはやてを見る機会は、ほとんどない。
だから3人は顔を見合わせると、笑顔を浮かべた。
「普段弄られてるだけに、逆の立場になると爽快ですね」
「私もそれには同意だよ」
「私は弄られたこと無いですけど、爽快なのは確かです」
いじり役を逆にいじったことで、ある種の爽快感が3人の中に生まれた。
と、ここで会話に入っていないのが一人。
「そういえば、さっきからなのはがいないね?」
「なのはさん?」
なのはがいる場所に視線を向ける。
すると、なのはは体育座りをしながら、地面にのの字を書いていた。
「……どうせ私なんて若くないですよ。噂だって知らないし、普通の噂好きな乙女の域から逸脱してるよ。恋人だって19年間一度もいたことない、寂しい青春を送ってましたよ。時々、私の姿を見ただけで怖がる人だっているって聞いたことあるし、乙女とはほど遠い場所にいるんだよ、私なんて……」
珍しくなのはがいじけていた。
「だ、大丈夫やなのはちゃん。私にもギンガにも相手はおらんよ」
「……はやてちゃんは噂になる人がいるでしょ」
はやてのフォローが通じない。
ここでギンガにバトンタッチ。
「私は公正明大、誓って噂の人なんていませんよ」
「でも、ギンガは『大和撫子』って感じだし、守ってあげたいと思う人がたくさんいるよ。私なんて『無敵のハッスルお母さん』とか『エースオブおばさん』なんてあだ名がちょうどいいんだ」
高町なのはの性格と実力を知ってなお『守りたい』と感じる人は、いったい何人いるだろうか。
……おそらく、男性の一割いるかどうかだろう。
「ちょ、ちょっとなのはさん、落ち着いてくださいよ」
と、ここで救世主が現れた。
「なのはさんって男性に人気があるんですよ。この間のパーティーだって、どうにかしてなのはさんと話そうとする人はたくさんいましたよ」
「……本当に?」
「もちろんです。ユーノ先生も『なのはは人気者なんだよ』って言ってましたし、間違いないです」
ティアナの情報に、少しだけなのはの表情が明るくなる。
「そ、そうだよね。私にもまだ希望はあるよね」
「もちろんです。いつかなのはさんの条件に合う男性が絶対に出てきますって」
ティアナが精一杯励ます。
「うん……うん! そうだよね。私だって19歳! まだまだ大丈夫だよ!」
握りこぶしを作る。
「そうです、全然大丈夫ですよ!」
「だよね!」
なのは──復活。
「よしっ! ヴィヴィオのために……そして私のためにこれから頑張ろう!」
おーっ! と一人掛け声をかけて気合を入れる。
「……なんかフェイトちゃんは単純だな、と思ったことはあるんやけど……」
でも、そんななのはを見てはやてが締めに一言。
「案外、なのはちゃんも単純なんやな」
お・ま・け
他の人と一緒になのはを励まそうと思ったら、はやてとティアナに止められた。
「何で私は励ましたら駄目なの?」
「……世の中にはな、勝ち組と負け組が存在するんや」
「今回のことに関しては圧倒的な勝ち組のフェイトさんが励ましても、嫌味になるだけですよ」
──おわり。
追記:スバルはなぜかいない。