22.5話




男どもの邂逅part2







とある居酒屋……みたいな子供でも入れるお店で今回、男が5人集まった。

「さてと、今日は数少ない男性達に集まってもらったわけなんだが……」

計画を立てた人物──ヴァイスが喋る始める。

「エリオ、お前いつからユーノ先生の子供になったんだ?」

「この間からですよ」

さも当然のようにエリオが言う。

「僕の自慢の息子です」

ユーノもエリオの肩を持つと、にこやかに微笑んだ。

「……息子、ねえ」

ヴァイスはそんな二人を見て、

「まあ、特に問題はないか」

軽く流す。
今までの経験を思い返したら、今更こんなことで驚いてばかりいられない……のだが、

「俺としてはこの人のほうが驚きだ」

と言って、ヴァイスは隣にいる人物に目を向ける。

「旦那、人間になれたんすね」

自分よりも背の大きな男を見て、呆れた声を出した。
冗談半分で誘ったのだが、まさか人間形態で現れるとは予想外だった。

「普段は犬のほうが何かと便利だからな」

ザフィーラが言葉を返す。
隣では、

「グリフィス君、久しぶり」

「お久しぶりです、ユーノ先生」

「はやては相変わらず?」

「ええ、相変わらずです」

「大変だと思うけど、頑張って」

「……はい」

大変な上司を持った青年と、司書長が言葉を交わしていた。

「はいはい。ちょっと会話を止めてもらっていいっすか?」

後々ゆっくり話すのだから、まずは集めた理由を聞いてもらう。

「さて、今日集まってもらった理由はただ一つ」

ヴァイスは改めて4人に宣言する。

「男だけで話をしてみたかったからだ」

「ぼ、僕はそれだけのために呼ばれたんですか」

ヴァイスの言うことにグリフィスが突っ込む。

「考えてもみろ。機動六課に男なんてほとんどいないんだぞ。なのにも関わらず、仕事の関係上、絡むことすら少ない」

切実にヴァイスが語る。

「普通は女といることがうれしいんだが、さすがに常だと……少し嫌な話だが男が恋しくなってくる」

精神的にも、なかなか辛いものがある。

「しかし、それはお前だからだろう。私は男が恋しくなどないし、男がいずとも寂しくない。他に何も問題などない」

ザフィーラが少し呆れたほうに言う。
しかし、そんなザフィーラに対し、ユーノが違う方向から突っ込みを入れる。

「でも、アルフが寂しがってたな」






ケースその1

〜ザフィーラの場合〜






「──っ!」

ビクリとザフィーラが肩を震わせた。

「先生、そのアルフというのは誰なんすか?」

「ザフィーラさんの『これ』ですよ」

ユーノは『これ』と言うときに小指を立てた。

「最近、全然会ってないみたいなんですよね」

時折会う彼女が、少しずつではあるが元気がなくなっている。

「こないだ偶然、アルフが『ザフィーラ』って黄昏ながら言ったのを聞いちゃったんです」

ユーノがザフィーラを追い詰める。

「旦那、そりゃまずいっすよ」

「ぼ、僕もそう思います」

ヴァイスの言うことにエリオが賛同する。

「……そうだな」

渋々ザフィーラが頷く。
どうやらまずいとは、本人も言われて思ったらしい。

「ザフィーラさん、はやて部隊長に知られたら大変ですよ。絶対に休暇を出されて『早く会いに行かなあかんやろ。もちろん、上手くいったら詳細は報告してや』みたいなことを、言うでしょうから」

グリフィスが当然のように言う。

「そう……だな」

自分の主の恐ろしさは、ザフィーラがよく知っている。

「これからは気をつけよう」






ケースその2

〜ユーノの場合〜






「最近、フェイトさんとはどうなんすか?」

出だしが出だしだったので、次の話もやはりこういった類のものになった。

「どう? って言われても、普通ですよ」

「けど、本当に羨ましいっすよ。美人の恋人だなんて。当然、キスぐらいはやってますよね」

ヴァイスが言った瞬間、ユーノが止まった。

「そ、それは…………」

ユーノの反応から、嫌な予感がヴァイスの中に生まれる。
無論、ザフィーラやグリフィスも同様のものが。

「まさか……そりゃないっすよね」

「さすがにな」

「そ、そうですよ。もう、キスぐらい──」

グリフィスのフォローにならなフォローが、ユーノの心を抉る。

「……まだです」

小さな声で、ユーノが呟く。

「先生……頭の回路がどっかイカれてんじゃ」

呆然とした表情でヴァイスが言い放つ。

「あんなナイスバディで、なおかつ特上の美人を恋人にしておいてキスの一つもしてないなんて……男としてどうかしてますぜ」

「そ、そう言われてもタイミングとかが判らないんです」

ユーノが言い訳をする。

「初恋の女性で、初めて付き合った女性ですから、どういうタイミングでしたらいいのか難しくて」

別にしたくない、とは断じて思っていない。
ただ、タイミングが判らない。

「タイミングって……どんだけ奥手なんだ、この人は」

あんなラブラブなら、いつでもどんな時でも大丈夫だろうに。

「気にするな、ユーノ。そういうのは自然と出来るものだ。気にせずともいずれ出来るだろう」

「……ザフィーラさん」

「ん? ってことは、先生はまだ──」

ヴァイスの言いかけた瞬間、ユーノがすぐさまエリオの耳を塞いだ。

「ヴァイスさん。子供の前です」

少し睨むようにユーノがヴァイスを見る。

「ちょいと子供とする話題じゃなかったっすね」

ヴァイスが笑ってやり過ごした。

「ホント、気をつけてくださいよ」

言って、ユーノがエリオの耳から手をどける。

「え、えっと?」

「気にしなくていいよ。今のはね」

エリオの疑問を、ユーノが笑顔で終わらせる。

「は、はい」

エリオとしてはよくわからないが、ユーノがそう言ったので、特に気にすることはしなかった。






ケースその3

〜エリオの場合〜






「エリオはキャロとどんな感じなんだ?」

「えっと……仲良くしてますけど?」

「恋愛対象として見てるか、ってことだよ」

気付け、といわんばかりにヴァイスが軽くエリオにチョップする。

「確かにエリオ君とキャロちゃんの二人は、兄妹に見えなくもないですからね」

「そうだな」

グリフィスとザフィーラが言葉を交わす。

「で、実際どうなんだ?」

「それはもちろん……」

「「「もちろん?」」」

「好き……ですけど……」

顔を真っ赤にしながらエリオが喋る。

「初々しいな」

「微笑ましいじゃねえか」

「純粋な感じがしますね」

「本当にね」

あまりにも子供らしい恋に、一同の心が和んだ瞬間だった。






ケースその4

〜グリフィスの場合〜






「こないだだって酷いんですよ。パーティーに……これは先生もいたパーティーの時のことなんですけど」

「僕もいた時っていうと……ああ、あの時か」

「そのパーティーで挨拶回りに付き合っていたんですが、その時に言われたんです」

「何をだ?」

「『忘年会か新年会は、私と夫婦漫才や』って」

泣きそうになりながら、グリフィスが語る。

「なんで夫婦漫才なんですか?」

「部隊長いわく、そういった際に漫才は必須なんだそうです」

「でも、そしたらスターズの二人でいいじゃないか? だってあいつらなら漫才ぐらい──」

「それが駄目なんです」

ヴァイスの提案を却下するグリフィス。

「どうしてだ?」

不思議そうにザフィーラが問う。

「彼女達が女の子だからです。ただの漫才は彼女達に任せてますが、部隊長にはこだわりがあるらしくて『昨今、夫婦漫才というのは絶滅種といっても過言ではない。だからこそ、夫婦漫才の素晴らしさを知ってもらうため、私とグリフィス君で夫婦漫才をするんや』ということを言われました」

「え? でも、それだったら……」

ユーノがヴァイスを見る。

「僕も言いましたよ。ヴァイス陸曹では駄目なのか? と。でも、結果は駄目でした。理由は『ヴァイス君は確かに何でもできる。ピン、コンビ、トリオ、何でもいけるはずや。けどな、彼が一番輝くのはおそらくピンや。私は関西人として、ヴァイス君の本当の実力をみたいんや!!』なんて力説をしたので、僕にはどうすることも……」

喋りながら、どんどんテンションが下がるグリフィス。

「今では一日三〇分、突っ込みの練習をさせられてるんです」

「……ご愁傷様です」

「俺、あの人になんで芸人扱いされてるんだ?」

「しかし、それならばエリオとキャロにやらせればいいのではないか?」

適当なことをザフィーラが言う。

「多分、二人には和ませ役を期待してるんだと思います」

それに答えたのはユーノ。

「エリオはお笑いにはちょっと向いてないですから。ヴァイスさんと違って」

「いや、俺も向いてないって!」

慌ててヴァイスが否定するが、誰も納得はしなかった。

「でも、ただでさえ忙しいのにそのうえ突っ込みの練習までしてたら、好きな人と会う時間、ないんじゃないの?」

ユーノが話を続ける。

「グリフィス君は好きな人とかいないの?」

「え? ぼ、僕はそんないませんよ……」

「嘘付け。お前、幼馴染の子がいるだろうよ」

「シャ、シャリオは幼馴染ですよ! 別に好きとかどうとかはありません!」

「じゃあ、ルキノか?」

「か、彼女は別に……」

グリフィスが言い淀んだ瞬間、エリオを除く男達に笑みが浮かぶ。

「その子は脈ありみたいですね」

「でも、あと一人ぐらいはいそうですぜ。他に、あいつの近くの女性って誰いましたっけ」

しばし男三人が考え込む。

「後は……主か」

「………………」

「………………」

ザフィーラの口から出てきた女性に、数瞬言葉を失う三人。

「まさか、はやて?」

「そんな、悪い冗談ですよ旦那。はやて部隊長だなんて」

「そうだな。主は素晴らしい女性ではあるが、まさかな」

「僕はいいと思いますよ」

エリオの一言に、グリフィスが肩を一度振るわせた。

「…………マジで?」

「……正気か?」

「素直にルキノさんに向かったほうがいいんじゃ……」

「えっと……?」

エリオ一人が、話についていけなかった。

「べ、別に好きとかそうのじゃないんですよ!? ただ、このあいだ……ちょっとありまして」

「それで気になっている、と」

「ほう、そうなのか」

「い、いえ、僕は──」

両手を左右に振り、大慌てで否定するグリフィス。

「別に否定はしなくてもいい。お前はそこらにいる男より信用に値する。だが──」

射抜くような視線でザフィーラがグリフィスを見る。

「主を泣かした瞬間、お前の命はないと思え」

「いや、旦那。脅してどうするんすか」

ヴァイスが突っ込む。

「そうですよ、ザフィーラさん。こういうのは脅したらいけません」

ユーノはそう言って、グリフィスの肩を掴む。

「いいかい。決してはやては高嶺の華なんかじゃない」

そう、彼女は高嶺の華ではない。
断じて違う。

「けどね、茨の道を突き進むことになるよ」

いや、茨というよりは、針地獄の道だろうか。

「だって、とんでもなく恐ろしい二人がいるからね」

ザフィーラやシャマルはマシな部類と言える。
問題は……残る二人。

「だから僕としては、ルキノさんを推奨させてもらうよ」

「俺も先生に賛成だ。姐さんやヴィータ副隊長は……怖いぞ」

「……確かにな。私もあの二人は抑えられん」

ザフィーラが心底恐ろしそうに言う。

「つまり、問題は八神隊長よりもシグナム副隊長とヴィータ副隊長なんですか?」

エリオがまとめた答えを言う。

「そうだよ」

「そうだ」

「そういうこった」






ケースその5

〜ヴァイスの場合〜






「やっぱり、最後はヴァイスさんですよね」

こういう話のとりは、やはりヴァイスが一番似合う。

「どうやらヴァイスさん、こないだの二人以外にも幼馴染の子と噂があるようで」

始めからユーノが直球ど真ん中を投げてきた。

「ど、どこからその情報を?」

「決まってるでしょう。僕が噂を入手できるルートなんてたかが知れてます」

「……あの人か」

脳裏に浮かぶのは、我が課の隊長。

「俺にとって鬼門だな、あの部隊長は」

ヴァイスが愚痴る。

「で、どうなんです?」

「別にあいつとは何にもないですよ。前にも言ったと思いますが、俺は……その……」

「ツインテールさんが好きなんですよね?」

エリオが笑顔で正解を言う。
グリフィスとザフィーラが驚きの表情を浮かべた。

「ほう、そうだったのか」

「始めて知りましたよ。ヴァイスの陸曹の好きな人」

口々に感想を言う。

「でも、色々と噂が立ちますよね、ヴァイス陸曹は」

「シグナムもいい弟分と言っていたが、実際はどうなのだろうな」

「姐さんは本当に良い姉貴分なだけっすよ!」

「じゃあアルト二等陸士とは?」

「あいつとは幼馴染なだけだ!」

「じゃあ、ランスターさんは?」






「だからそいつが好きだっつってんでしょうが!」







瞬間、不思議と静寂に包まれた。

「えっと、皆どうして黙ってるんだ?」

恐る恐るヴァイスが訊く。
すると返ってきたのは、

「い、言い切りましたね」

「男だな、ヴァイス」

「いい啖呵でしたよ、ヴァイスさん」

「かっこよかったです!」

賞賛の嵐だった。

「けど、それが行動に現れてないのがヴァイス陸曹ですよね」

「なに?」

ヴァイスがどういうことか問い詰めようとする。
が、その前にザフィーラが答えた。

「このままだとツインテールの良い兄貴分で終わる、ということを言いたいのだろう」

「……ま、マジっすか?」

「どう見ても好意を持っている態度ではないからな」

ザフィーラが言いながらユーノを見る。

「僕は話を聞いているだけなので、何とも言えませんよ」

ヴァイスからは、彼女のことが『好き』としか聞いたことがない。

「ですから今度、六課に行ったときに確認してみますね」

「じゃあ、父さんがいないときに僕が見たら、報告します」

「ありがとう、エリオ」

親子が笑いあう。
微笑ましい光景だが、ヴァイスにとってはちっとも心穏やかにならない光景だ。

「いや、ちょっと──」

「僕も二人のことは気をつけて見ることにします。何か分かったら、ユーノさんに報告させていただきます」

「グリフィス君もありがとう」

ヴァイスをよそに、着々と包囲網が完成されていく。

「私もユーノには少なからず恩がある。何か気付いたら連絡をよこそう」

しかも、小学生のような包囲網が。

「男とはいえ、こういうのは楽しいですね」

「否定はしない」

「はい!」

「そうですね」

ザフィーラ、エリオ、グリフィスが全員頷く。

「というわけでヴァイスさん、頑張ってください」

ユーノの言葉が切っ掛けとなり、四人が一斉にヴァイスの背中を叩く。
すると、それをやられたヴァイスの反応は──

「もう……好きにしてください」

反抗する意志も無く、諦めていた。


















場所:どこかの居酒屋風ファミレス

ヴェロッサ:仕事の都合により除外







というわけで、おまけでした。










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