21.5話







男どもの邂逅







それは、ヴァイスが到底一人では持ちきれない荷物を持っていたときだった。

「あの、手伝いましょうか?」

横から少し声の高い男から話しかけられた。

「ああ、手伝ってくれると助かるぜ」

大きすぎる荷物がどけられて、手伝ってくれる人物の顔がヴァイスの視界に映る。
その人物は──

「えっと……どちらで?」

「初めまして。考古学士で、無限書庫の司書長ユーノ・スクライアです」

「ユーノ・スクライア…………ああ、あんたがあのユーノ・スクライア先生か」

機動六課の中で時折、話題に出る人物だ。

「俺はヴァイス・グランセニック。機動六課で──」

「ヘリパイロットをしている方ですよね」

ヴァイスが言い切る前に、ユーノが答えた。

「どうしてそれを?」

「八神部隊長やフェイト隊長、あとキャロやエリオ君から色々と聞いているもので」

くすくす、と笑いながらユーノが答える。

「どんな風に聞いてるんすか? っていうか、俺は誰にどう言われたんだ!?」

笑っているユーノに違和感を持つ。

──誰か、変なこと言った奴がいる。

ヴァイスは一瞬で結論に達する。
そして今、ユーノが説明した中で唯一まともな説明をしてなさそうなのがはやてだ。

「八神隊長、俺のことどんな風に言ってました?」

だからヴァイスは一応訊いてみた。
すると、

「ボケ・ツッコミ・ノリツッコミを全てこなせるマルチプレーヤーだと聞いてますよ。そしてピンからコンビ、トリオまでどんな状況でも活躍できるって」

案の定、まともな説明をされていなかった。

「あの隊長、俺のことをどんな目で見てんだ」

「そんな目だと思いますよ。彼女のことだから」

まったく否定できないことをユーノが言う。

「まあ、そこは置いといて、です。とりあえず、これを運んじゃいましょうか」


















二人は品を運び終わると、歩きながら談笑の続きを始めた。

「それで、今日はどういったご用件でここに?」

「八神部隊長に届け物を持ってきたんです。でも、それはもう終わったので、子供達の様子をちょっと見ようかと」

「子供達っていうと?」

「キャロとエリオ君の様子です」

「あの二人の?」

「基本的に近くに寄ったら顔を出すようにしているんですよ」

「へぇ、そうなんすか……」

ヴァイスが納得する。
確かキャロは司書長から特訓を受けてる、なんてことを聞いたことがある。
と、ここで子供のうちの一人が通りかかった。

「あれ? ユーノさん?」

通りかかったのは……エリオ。

「やあ、エリオ君」

「よう、エリオ」

二人がエリオに声を掛ける。

「あれ? ユーノさんとヴァイスさん、知り合いだったんですか?」

「いや、さっき会ったばっかりだよ」

「ちょっと大変だったところを、先生が手伝ってくれなすってな。その縁でちょっとした談笑を。うちは男の数が圧倒的に少ないから、男同士で話すのなんて滅多にない。男だけってのも久々で楽しいぜ」

「そうですね。僕も考古学のお偉い先生以外には、男同士なんでほとんどないですからね。というより、僕は男友達少ないですから男同士で話すのは本当に楽しいですよ」

「へえ、そうなんですかい。確か先生はなのは隊長やフェイト隊長と……」

と、ここでふと浮かんだ疑問が一つ。

「ん? そういえば先生といったらフェイトさんと……」

「付き合ってますよ、ユーノさんとフェイトさん」

ヴァイスの疑問に答えたのは、ユーノではなかった。

「やっぱりあの噂は本当だったのか」

局員の間でまことしやかに流れている噂。
それが事実だったことにヴァイスは軽く驚く。

「そこんとこ、詳しく話を聞かせてもらいたいですな、先生」

ヴァイスはユーノの肩を叩く。

「えっと……そういうのはまた今度にしません?」

「まさか。こんなおもしろいネタ、ほっといたらバチが当たるってもんですぜ」

「そんなこと言われても…………話すことなんてほとんどないですよ」

「いえいえ、こっちとしては訊きたいことがたんまりとあるんすよ」

ヴァイスは噂が事実だったということを知って、訊きたいことがいくつも出来た。

「まず、どうやってあのフェイト・T・ハラオウン執務官を口説き落としたのか、興味を持たないほうがおかしい!」

「えっと……それってどういうことですか?」

「フェイトさんといえば、ガードが城砦のように固いって有名なんすよ。男の誰が誘っても決して靡かず、断り続ける。一時はなのはさんとよからぬ噂も出たぐらいの堅守を誇ってましたからね。だからこそ興味があるんですよ」

言っちゃ悪いが、あのフェイトが誰かと付き合うというのは意外中の意外。
だから興味を持たないほうがおかしい……のだが、、そんな一般論はエリオに通じなかったみたいだ。

「そうですか? 僕はフェイトさんとユーノさんの二人の様子を見てるかぎり、フェイトさんが断り続けたのはユーノさんがいたから、って思えます」

「そうなのか?」

「すごいラブラブですからね、ユーノさんとフェイトさん。なんかもう、ユーノさんが隣にいるだけでフェイトさんの表情が違いますよ」

と、エリオがヴァイスに説明しているときだった。

「ユーノ!」

話題の中心となる女性が遠くから声を掛けてきた。
そのまま駆け足でユーノ隣へと駆け寄ってくる。

「フェイト」

「何でここにいるの? 来るなら言ってくれればよかったのに!」

「いや、だって君、昨日電話したら忙しそうだったじゃないか。だから会う時間はないんじゃないかなって思ったんだよ」

「だとしても、ちゃんと言うこと。いつも電話じゃ話してるけど、面と向かって会うのは一週間ぶりなんだから!」

少し拗ねながらフェイトが言う。
と、フェイトはここまでユーノに言ったところで、後ろの二人に気が付いた。

「ヴァイスにエリオ?」

ユーノの後ろではヴァイスが軽い動作でフェイトに応え、エリオも笑顔で応えた。

「珍しいね、この二人といるなんて」

「たまたま会ってね。ヴァイスさんとは初めてお会いしたんだけど、親しみやすい人でよかったよ」

あまり男友達のいないユーノにとっては、彼のフランクなところは非常にありがたい。

「それで、フェイトは仕事の途中じゃないのかな?」

「あっ! そうだった、すぐに行かなきゃ」

フェイトは仕事の途中だったことを思い出すと、駆け足でユーノのところから離れていく。
が、途中で振り向くと、

「今日ははやてと二人っきりじゃなかったよね?」

「リィンフォースがいたよ。それにグリフィス君もいたかな」

「今夜は私も司書長室に顔を出すからね」

「りょーかい」

ユーノの答えにフェイトが満足げ頷いた。
そしてそのまま仕事へと戻っていく。

「こりゃエリオの言ってたことに納得するしかねーわな」

ヴァイスは肩を竦めてエリオを見る。
確かにこんなフェイトは、ユーノがいなければ見ることができない。

「で、先生。ラブラブになったコツは?」

「ラブラブって言われても……僕としてはなんともいえないですよ」

特に意識してこうやっているわけではない。

「自然にこうなったとしか……」

「そうなんすか。まあ、何にしても時空管理局の華をゲットしたんだから、よかったっすよね」

「そこは否定しませんけどね。けれどヴァイスさんにはそういうのないんですか? 僕は何回かそういう話題で貴方の名前が出てきた覚えがありますよ」

「は? 一体どういったことを?」

「私のヴォルケンリッターに手を出そうとした勇者がいる、ってことで聞いたことがあります。最近のだと、年下の金髪ツインテール美少女を毒牙にかけようとしているとか」

ユーノが言った瞬間、ヴァイスが噴出す。

「だ、誰がそんなことを!」

「はやてですよ。基本的にそういう面白おかしいことは、はやてから聞かされるんです」

「……あの隊長、本当に噂とか好きなんだな」

「しょうがないですよ。まだ二十歳にもなってない女の子たちの娯楽といえば、噂が一番でしょうから」

時空管理局勤めている以上、最上級の娯楽に近いだろう。

「エリオ君もそれだけは気を付けなよ。気が付いたら「何でこんな奴と!」っていう噂をいつの間にか立てられるから」

「……えっと……あるんですか、ユーノさんは?」

ユーノの本当に嫌そうな表情から、実際に噂を立てられたのでは? などとエリオは思う。
そしてエリオの考えは……見事的中した。

「あるよ。どうしてそうなったのかは全く分からないけどね、本当に最悪な奴との噂が立ったことがある」

「誰と噂になったのか興味がありますな」

ヴァイスが突っ込んでくる。

「……………………クロノって知ってますか?」

瞬間、エリオの顔が引きつった。

「クロノ?」

「…………クロノ・ハラオウン提督です。フェイトのお兄さんですよ」

続いてヴァイスの表情が固まった。

「だから本当に気をつけたほうがいいですよ、二人とも。男との噂なんて最悪です。女の子と噂されるなら天国だって思えますから」

あはは、とユーノが力なく笑う。

「そ、そいつはちょいときついな」

「き、気をつけます」

二人とも軽く引きつりながら、ユーノの二の舞にはならないことを心に誓う。

「まあ、今は置いときましょうか。こういうのは滅多にありませんから。で、問題はヴァイスさんですよ。どっちが本命なんです?」

「あ、僕も気になります。シグナ──」

言いかけたところで、ユーノがエリオの口を塞ぐ。

「こういうのはあえて名前を出さないのが醍醐味だよ、エリオ君」

開いている片方の指で、『静かに』のポーズをとる。

「というわけで、どっちです?」

心底楽しそうにユーノが尋ねる。

「シ、シグナム姐さんはシグナム姐さんであって、あいつは……その……なんだ……」

ヴァイスが言いよどむ。

「ふむ……本命は金髪ツインテール美少女ですか」

「べ、別にそういうわけじゃ!」

ヴァイスが必死に言い訳しようとするが遅い。
すでにエリオとユーノの中で、ヴァイスの本命は決定された。

「そうだったんですか。ヴァイスさん、ティア……じゃなくて、金髪ツインテール美少女さんのことが本命だったんですね」

「みたいだね」

ユーノとエリオが目の前の男の秘密を知って、なぜかハイタッチをした。
二人のその様子に、ヴァイスはがっくりとうな垂れる。
もう何を言っても無駄だと悟ったのだろう。

「それじゃあ僕、そろそろ行かないと訓練に遅れますから。行ってきますね、ユーノさん」

「頑張って。でも、怪我はしないように」

「はい!」

エリオは元気よく返事をすると、そのまま訓練場へと駆けて行く。
ユーノはエリオを見送ると、今度はヴァイスに近づいていった。

「まあ、偶にはこういうこともありますよ」

ポンポン、とヴァイスの肩を叩くユーノ。

「……まさか初対面の人に看破されるとは思ってませんでしたよ」

「ヴァイスさんの反応がわかりやすいんです」

「少なくとも、他の連中の前じゃばれなかったんですけどねぇ」

ヴァイスが頭を掻く。

「まあ、いいか。おかげで楽しい時間が過ごせたし」

気楽にヴァイスが言う。

「いえいえ。僕も楽しい時間が過ごせました」

男三人で談笑するなど、生まれて初めてかもしれない状況を作り出してくれた彼にユーノは感謝をする。

「一応、電話とアドレスを交換しておきましょうか。また今度、ゆっくり話したいですし」

「そんときは、他の野郎も誘って飲みにでも行きましょうや」

「ですね。偶には男同士、いろんな話もしたいですから」

「んじゃ、俺はこれから仕事があるんで」

「はい。頑張ってください」

一瞬だけ手を振って、二人は潔く別れる。

「…………さて、と……」

男同士の談笑時間も終わり、ユーノは一度呟くと、訓練場へと目を向ける。

「次は訓練を観にいこう」

ユーノの心休まる時間は、もう少し続きそうだ。


































というわけで、男三人によるおまけです。
一応、ユーノとフェイトが付き合った後のお話、ですね。

主役:ユーノ、ヴァイス

準レギュラー:エリオ

ゲスト出演:フェイト

といったところでしょうか。












                              一応TOPへ