20.5話。
〜〜ある日、無限書庫のソファーでしていた二人の会話〜〜
「ユーノってさ……」
「なに?」
「最近、さらにキャロを甘やかしてるよね」
ポツリ、とフェイトが呟くようにユーノに言った。
「そう……かな?」
「そうだよ」
フェイトは断言する。
「だってキャロとすぐに手を繋ぐし」
キャロが近づいて手を差し出したら、ユーノはすぐに手を繋ぐ。
「キャロがえらいことしたらすぐに頭撫でるし」
本当に些細なことでも彼はキャロの頭を撫でる。
「こないだ一緒に寝たときなんて、腕枕までしたんだってね」
そのことをキャロが嬉しそうに話してきた。
「私だって手を繋いだりするの、全然ないのに……」
手を繋ぐことだって数えることしかない。
つまり触れ合うことはほとんどない。
だから、
「やっぱり甘やかしすぎだよ」
フェイトは本当にそう思う。
ユーノにはつまらないことかもしれないけれど、フェイトにとっては重要なことだった。
「えっと、そう言われてもね……」
一方で、ユーノは頭を少しかきながら弁明を考える。
──フェイト、少し機嫌が悪いみたいなんだよね。
どうも彼女は不機嫌そうにしている。
態度だって素っ気無い。
──そんなにいけないことかな。
確かに甘やかしすぎているような気が自分でもしなくもないが、キャロが甘えてくる以上、ユーノとしては最大限に甘えさせてあげたい。
──だから自然とスキンシップも…………って、まさか!!
ここまで考えたところでユーノはある一つの可能性にたどり着いた。
「…………もしかして……」
フェイトの顔を覗き込む。
自然と二人の目が合った。
「あのさ、フェイト。もしかして君、キャロに──」
思いついたことをフェイトに言おうとするユーノ。
するとフェイトは、彼が言おうとしていることを察して、
「ち、違うよ!? う、羨ましいとかいいなとかずるいとか思ってないよ!?」
顔を真っ赤にしながら抗議する。
「…………えっ?」
けれど彼女の抗議は…………自爆。
そこまで言ってしまうと、まったくもって説得力がない。
というよりも、肯定しているようなものだ。
「…………うぅ……」
フェイトもうかつにそれを言ってしまったのに気付いたのか、顔を真っ赤にしながら俯いた。
ユーノはそんな彼女の様子にくすくす、と笑う。
──もう…………なんでこんなに可愛いんだろうな。
彼女のこんな姿を見るたび、本当にそう思う。
「わ、笑わないでよ」
俯きながらもフェイトが抗議する。
「だって僕の娘だよ」
嫉妬してくれたのがうれしくて、娘に嫉妬しているフェイトが可笑しくて、ユーノは笑うのをやめない。
「………………どうせ…………私は嫉妬深いですよ」
顔は赤いまま、少し拗ね気味にフェイトが言う。
キャロだということは分かってはいるけれど、それでもずるいと思ってしまうのだから仕方がない。
「別に嫌だ、なんて言ってないよ。むしろすごくうれしいし」
「本当に?」
「本当だよ」
これは絶対だ。
「それにキャロだけ甘やかそうとしてるわけじゃないんだ」
「……そうなの?」
フェイトとしては、どうにもその言葉だけは納得できない。
「そうだよ。ただ単純に、フェイトと手を繋いだりするのは緊張するんだ。君と手を繋ぐとき、キャロと違ってどうしようもなく緊張するんだよ。たぶん、抱きしめたりしたら心臓が破裂しそうになるね、きっと」
「……こないだ、抱きしめてくれたのに?」
ユーノの言っていることは、フェイトには確実に当てはまる。
が、ユーノに当てはまるかどうかは……少し疑問だ。
「抱きしめたのはノリというか状況というか……そ、そういう雰囲気だったから」
照れながらユーノは言う。
ムード、というのだろうか。
あの時は簡単にフェイトを抱きしめられた。
「…………雰囲気に流されたの?」
瞬間、フェイトの顔から赤味が一気になくなった。
「も、もちろん雰囲気に流された、なんてことはないよ。僕が自分の意志でフェイトを抱きしめたんだ」
そしてそれを見たユーノが、慌てて弁解するように付け加える。
「だからその……キャロのほうがスキンシップ多い理由、分かってくれた?」
「……一応」
言っていることに納得はできた。
が、感情は納得していない。
「でも、やっぱり『ずるい』って思う」
自分はユーノの恋人なのだ。
独占したい気持ちは多大にある。
「だからね……抱きしめてほしいな」
フェイトはユーノにとても厳しいことを要求する。
「……その……本気?」
「本気だよ」
恥ずかしそうに……けれど期待に満ちた表情でフェイトはユーノを見詰める。
「えっと……僕としては嫌なはずないんだけど……」
ただ、とても恥ずかしいだけで、フェイトを抱きしめるのが嫌だという感情は1ナノグラムもない。
だからユーノは緊張しながらも、フェイトの肩に手をかけた。
そして──
──カチャリ──
「おとーさん! エリオ君を連れ…………て…………」
4人の時が止まった。