アルフの目の前で、ユーノが右へ左へうろうろと落ち着きなく動き回る。

「ユーノ、少しは落ち着きなよ」

「わ、分かってはいるんだけど……」

こんな一大事に落ち着いてなどいられない。

「エリオやキャロを見てみな。あの二人だってお兄ちゃんとお姉ちゃんになるのに、落ち着いてるんだ。父親のあんたが一番落ち着かないでどうするんだい」

アルフが隣に目を向ける。
エリオとキャロは椅子に座ってじっと待っていた。

「お父さん、落ち着いてくださいよ」

「そうですよ。本当は僕達だって落ち着かないですけど、頑張って待ってるんですから」

「そ、それもそうだよね」

ユーノはふたりの言うことに納得して立ち止まる。
が、1分もしないうちにまた動き出す。
そんなユーノを見て、アルフが一言。

「駄目だこりゃ」













My family外伝


── days ──














吉報は4人で夕飯を食べているときだった。

「……今、なんて言ったの?」

「だから、3ヶ月なんだって」

フェイトがお腹を少しさする。

「お母さん、赤ちゃんができたんですか?」

「うん」

嬉しそうに肯定する。

「エリオとキャロに弟か妹ができるんだよ」

伝えた瞬間、二人の表情が一気に明るくなった。

「二人は弟と妹、どっちがいい?」

「僕は弟が欲しいです!」

「私は妹です!」

意見が割れる。
瞬間、二人の間に火花が散った。

「弟だったら一緒に外で遊べるんだよ?」

「妹だったら一緒にお買い物ができるよ」

エリオとキャロが意見をぶつける。
そんな二人のやり取りを見て、フェイトがくすっ、と笑った。

「クロノのところみたいに、双子が一番いいのかな?」

男女の双子が一番二人が納得するだろう。

「でも、二人のことだから弟でも妹でも可愛がるよね」

言い合っているとしても、結局はエリオとキャロのことだ。
どちらであっても絶対に可愛がる。
血は繋がっていなくても、そういうところは本当に似てる。
本当に『家族』なんだなって思う。

「あれ? そういえば……」

と、フェイトはさっきから一言も喋らない夫に視線を向ける。

「ユーノ? おーい、ユーノ?」

呆けている彼の顔の前で手をひらひらと振る。
すると、呆然としながらも言葉が返ってきた。

「……赤ちゃんができた?」

「そうだよ」

首肯する。

「フェイトに?」

「うん」

もう一度首肯。

「僕の子供?」

「もちろん」

他にいるわけがない。

「僕の……子供ができた」

もう一度、噛み締めるように呟く。

「……嬉しい」






      ◇      ◇






「先生、何を読んでるんすか?」

「フェイトが買ってきた妊娠出産本ですよ」

「それ、男が読む必要あるんすか?」

「ありますよ。妊娠によってどういった精神状態になるのか。妻がやってほしいことは何なのか。それをちゃんと理解してあげないといけません。ヴァイスさんもティアナさんが妊娠したら読んだほうがいいですよ。でないといざというとき、フォローが出来ませんから」

ユーノのたとえ話に、ヴァイスの顔が少し赤くなった。

「に、妊娠って俺らにはまだ早いような……」

「例えですよ、ヴァイスさん」

とはいえ、そのおかげでからかう絶好のネタができた。

「それにしてもプラトニックな関係なんですね、お二人は」






      ◇      ◇






「お母さんは座っててください! もう臨月なんですよ!」

「いや、でも少しは運動したほうがいいと思うんだけど……」

お腹が大きくなるにつれて、キャロとエリオとアルフが率先して動くようになっていた。
だから家事でやることはほとんど無くなっている。

「駄目です!」

キャロに拒否される。
あまりに語尾の強さに、フェイトは苦笑して皿を洗うことを諦めた。
浮かした腰を下ろすと、目の前でユーノも苦笑していた。

「予定日は1週間後だよね?」

「そうだよ」

夫の問いに頷く。

「出産には何があっても行くから、安心してね」

「ん、ありがと」






      ◇      ◇






「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

皆で時が過ぎるのを待つ。
キャロは両手を合わせて、祈るように。
エリオは膝の上に両手を乗せて、じっと。
アルフは落ち着いた感じで、腕を組んで。
ユーノはうろうろと、未だに動いていた。

「8時間とちょっと……か。ユーノ、そろそろ──」

アルフがそう言った………………瞬間だった。
何かが三人の耳に届いた。






「────っ!」






声が……泣き声が響いた。

「お父さん!」

「父さん!」

「ユーノ!」

三人が一斉に立ち上がる。
目の前のドアが開く。
助産婦の方が出てきた。

「無事、生まれましたよ」

瞬間、エリオとキャロがハイタッチをする。
アルフは「フェイト、よく頑張った!」と声にして彼女を労った。

「皆さん、中に入られますか?」

「はい」

分娩室にユーノが入っていく。
けれどエリオとキャロ、アルフは足を止めた。

「三人とも?」

「最初はお父さんだけで行って下さい」

「その後、私らも入るから」

「お母さんと赤ちゃんの三人で会ってください」

それぞれ、笑顔でユーノを送り出す。
どうしてか分からないけれど、そうしたほうがいいように感じた。

「分かった。ちょっとフェイトと話したら、皆を呼ぶね」

三人の配慮に感謝して、ユーノだけが歩みを進める。
ユーノだけが分娩室に入り、フェイトと……赤ちゃんと対面する。

「頑張ったね、フェイト」

「……ユーノ」

穏やかな表情を浮かべていた赤ちゃんを抱いていたフェイトだったが、彼の登場でさら綻ばせた。

「この子が私とユーノの赤ちゃんだよ」

ユーノに見やすいように赤ちゃんを少しだけ動かす。

「ほら、パパだよ〜」

フェイトの言葉にユーノの顔が緩んだ。
そしておっかなびっくり赤ちゃんに手を伸ばして触れる。




……暖かく、なんとも言葉にしがたい感情が生まれた。




「本当に、当たり前のことなんだろうけど……」

不意にユーノが声を紡ぐ。

「……ありがとう」

「え?」

「生まれてくれてありがとう」

赤ちゃんに伝える。
感謝の言葉を赤ちゃんに伝える。
どうしてか、涙腺が緩んだ。

「フェイト、ありがとう」

そして今度は妻へ。

「どうして?」

「僕の子供を産んでくれてありがとう」

心からの感謝を込めて、フェイトに伝える。
けれどフェイトは、さも当たり前の表情で当たり前の返答をした。

「当然だよ、そんなの」

妻なのだから、夫婦なのだから当たり前だった。











次の日から、続々と友人達が駆けつけた。

「この子がユーノ君とフェイトちゃんの子供なんだ」

なのはが「可愛い〜」と言いながら、赤ちゃんを少しだけ触る。

「僕達の『 』でもあります」

何故かエリオとキャロが胸を張って答える。
すると、なのはと一緒に赤ちゃんを見ていたヴィヴィオがなのはにぽつりと、

「ママ、私も弟か妹が欲しいな」

「……ママに大事な人が出来たらね」

ヴィヴィオの言葉に、なのはは少しうな垂れながら答えた。






「孫がこれで5人目。孫が増えるたびに歳を感じるわ」

出産のお祝い品を持って、リンディとエイミィとクロノが登場した。

「歳って、お義母さん……」

「母さんが言っても、あまり信憑性がないかな」

未だに若作りのリンディが歳だと言っても、あまり信じられない。

「でもまあ、これでうちの子供たちにも年上と年下のイトコが出来たわけか」

「まあ、そうだな」

「フェイトちゃんも偶には子供三人を連れてうちに来てね。楽しみに待ってるから」

「ありがとう、エイミィ」

歳の近い母親同士だから、話も合うだろう。

「お前も父親とはいえ、赤子を育てるのは初めてだろう? どうだ、僕に相談でもするか?」

「いや、子育てに関してお前ほど不適任な存在はいないと思うから、意見交換に留めておくよ」






「おっ! これが二人の赤ちゃんか」

「やっぱり可愛いもんやな」

「そうですね」

ヴァイスとティアナ、はやてが三人揃ってやってきた。

「そういえば、ユーノ君はどうしたんや?」

「お昼過ぎまでは仕事に出てるから、そろそろ来るんじゃないかな」

さきほどユーノからそのような連絡が来た。

「ユーノ君も頑張るな」

「なんか、鬼神のような働きぶりだってクロノが言ってた」

夫が病院に来るために全力で仕事をしてるのだと思うと、嬉しくて顔がついにやけそうになる。

「でも、本当に赤ちゃん可愛いですね。私も子供が欲しくなっちゃいました」

ほう、と息を吐きながらティアナが感想を漏らす。

「そういえば、二人はいつ結婚するんや?」

からかうようにはやてが茶々を入れる。

「八神隊長に彼氏が出来たら結婚しましょうかね」

軽口で応酬するヴァイス。
けれど、そこにティアナが、

「ヴァイスさん! それって私と結婚したくないってことですか!?」

「ちょっ、ティアナ! それどういう意味や!?」

慌ててはやてがツッコミを入れる。
何故か病室の中でコミカルな空気が生まれた。














      ◇      ◇














──夜。

病室にいるのはフェイトと赤ちゃんだけ。

「知ってる?」

赤ちゃんを優しく抱きながら、フェイトは言葉を紡ぐ。

「君にはね、優しいお兄ちゃんとお姉ちゃんがいるんだよ」

血は繋がっていないけれど、それでも血縁以上に繋がっている兄妹がいる。

「君にはね、優しいお父さんとお母さんがいるんだよ」

優しい父親と甘い母親がいる。

「君にはね──」




──『    』にはね。




「君のことが大好きな『家族』がいるんだよ」




だから。




「安心して成長してね」




何にも恐れず、何も失わず、何も無くならない。




平凡で、当然で、普通な暮らしをこの子にまっとうさせてあげたい。




それが『母親』としての願い。




それが『母親』としての誓い。



























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